ビジョンコーチングの重要性に気づいためがね屋さんのカリスマ店員~自己奮起力を高め、将来にむけてビジョンを立てる~

販売が天職だという仲野さん。彼は、その人の顔立ちや表情を引き立てる、人の個性にぴったりフィットするフレームを売るめがね屋さんの社員です。もちろん、度をあわせる腕も非常によく、彼の手にかかると、どんな人も、これが私?と疑いたくさえなるような魅力ある「めがねと人を出会わせるコーディネーター」として活躍しています。そんな彼が突然、職場を変わりたいと、相談に来たので、びっくりしながら、セッションにのぞみました。

「仲野さん、どんなことがあったんですか?」事実を確認するために、まずは質問です。

「会社が合併して、相手先の会社の社長が新会社の社長になったんです。社長が変わって、経営方針が変わっちゃったんですよ。これまでは高級路線出来ましたが、『時代が変わったのに気づかない社長だったから、この会社は、うちに吸収されたのです』と、新しい社長の挨拶は、これまでの社長の仕事やり方を全部否定するような方向の話ばかりだったんです」

大きなため息をつきながら、仲野さんは話します。

「そんな就任の挨拶を聞いていて、僕は、この会社にこのままいてもいいのかなぁ・・という気持ちになってしまったんです。これまでの社長には、大変目をかけてもらっていたし、新しいフレームの輸入に成功して社長賞をもらったのも、社長の『自信もってやって来い!』という後押しがあったから出来たことであって、決して自分一人で出来たわけじゃないと思うんです」

「仲野さんは、社長の信頼を得られていたんですねぇ・・」
「吸収合併だから、僕たちの会社の社員は、これからどんどんリストラされるってうわさもあるし。僕なんか、一番最初に目をつけられますよね?前の社長にかわいがってもらっていたんだから・・・。なんだか、ますます気が滅入ってきちゃいます」

「私には、あなたの不安な気持ちも理解出来ます。が、このほんとうにリストラされるのでしょうか?」
「だって、私は社長からの信頼をいただいていた、いわば、子飼いの社員なんですよ。あの新社長の話しぶりでは、前の社長が敵だと言わんばかりなんですから・・」

「戦国時代のようですね。ちゃかしてごめんなさい。敵とか味方とか、そういう色分けをしている根拠を何か感じるのですか?」
「いいえ、別に根拠はありません。新社長の言葉から、私がそういうイメージをもっただけかもしれません。でも、私の直感は当たるんです」

「直感が当たるんですね。それでもそれは仲野さんの直感であって、根拠があるわけではないんですよね?」
「そうですね・・・根拠はありませんねぇ。でも、普通、ニュースなどを見ていると、吸収された側の社員が悲哀を味わうということになっていますよね。僕たちの会社が食われたんだから、やっぱり社員はリストラされるか、一生、役職にはつけないということじゃないでしょうかねぇ」

「仲野さんは、今回の企業合併をどのように考えておられるのですか?」
「会社の負けです。そして私自身の人生の敗北ですかねぇ。社長だったわけじゃないけど、会社のために、一生懸命働いてきたわけですからねぇ。それは、給料のためだったし、いつかは
役員になって、この会社をもっと大きくしようと思ってやっていたことなわけで。その頃から考えたら、敗北ですよ。私の人生、もう終わりだな」

「そうですか・・。仲野さんの人生は敗北で終わってしまうという気持ちなんですね」
しばらく沈黙の時間の後、コーチは冷静に次の質問をしました。
「ところで仲野さん、仲野さんの人生を描きなおすとすると、どんなふうに描きなおすことが出来ると思いますか?」

「それは、タイムマシンにでも乗って後戻りするならということですか?そんなの無理ですよ。今の状況を認めないで、過去にさかのぼって人生を描きなおしことに何の意味があるんですか?私はそんな過去にこだわらずに、先のことを考えて転職しようと思っているんです」

語気を強めて反論する仲野さんに対して、

「いえ、過去のことにこだわって思い出に浸ったり、やり直せれば思うのではなく、人生を描きなおしてみるということはこの先の仲野さんの人生をどう設計するかということなのです。会社は吸収されて新しくなったんです。仲野さんの人生が仕事と切り離せないものであるなら、この変化をチャンスとして利用することを考えましょう。仲野さんの人生は終わったわけではなく、新しくなったんです」と、コーチは穏やかに言いました。

「チャンスですか。なるほどそう考えることも出来ますね」
「そうなんですよ。変化はチャンスなんです。新しいことを考えるとしたらどうですか。この先楽しくなりませんか」

「確かにここから新しい人生が始まるわけですね。くよくよしていても始まりませんね。ここは一つこれから何をしていこうか五年先、十年先を見据えながら考えてみることにします」。
「そのとおりです。五年先、十年先を見据えて今日から何をしようかと考えて、それを実行に移しましょう」

「コーチのおっしゃるとおりですね。五年先、十年先を見据えながら考えてみるだけではだめですね。今日からの実行が伴わないといけませんね」
「そうです。実行しましょう。しかし、一度に沢山のことをしようとすると無理も生じますので、あせらずじっくりと考え、考えがまとまったらすかさず行動することにされたらいかがでしょうか」

人は、予期しないことが身に起きると、自分の勝手な思い込みによって、自分の心に待ったをかけるかのごとく、行動することを放棄してしまうことがあります。そしてその思い込みは、しばしば全く論理的ではありません。新しい事態ですから、ここで一度立ち止まって、どうしてこうなったのかと、原因を究明することは確かに大切なことですが、過去に原因を探しに行っても、その過去が変わるわけではありません。それよりも、むしろ、この変化をどう捉えて、目標の修正や人生のプランを描きなおすことを考えて、1日も早く行動し始めることが大切です。目標を立て、戦略を考え戦術を立てる。
縮こまっていないで自己奮起力を高めて行動する。行動した自分を自己承認しながら更に自己奮起力を高め、次に進む。
そうすることによってまた新しい未来が開けてくるわけです。意気消沈しているときこそ、将来に向けってビジョンを立て行動に移る、ビジョンコーチングが重要になります。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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