エデュケーショナル・コーチング~子育てコーチングセミナーに参加して~~子どもとのコミュニケーションを見直す~

小学六年生をもつお母さんの悩みは、学期ごとにある、担任教諭との面談で、子供の生活態度について常に注意されることでした。自分の子供には協調性が欠けていると言われることでした。そんな時、インターネットでたまたま見かけた子育てコーチングの無料セミナーにに参加することによって子供とのコミュニケーションがいかに大切で、どんなにか難しいことなのかを、改めて感じたというお母さんのコーチングとの出会いです。
セミナー当日、会場に向かう足取りは、どんどん重くなっていたようで、開始ぎりぎりに飛び込んだということもあり、息を整えるのが精一杯のうちに、スタートしました。参加者は一様にモチベーションが高そうで、場違いなところに来たなと思ったお母さんでしたが、コーチの笑顔に救われる思いを感じたので、どきどきしながらも席を立たずにいられたそうです。
セミナーは、ただ黙って座って聴いてれば良いというものではなく、「今、何を感じましたか? あなたならどうしますか?」とコーチに質問されたり、ワークショップが中心だったりして進むようで、〝コーチングって何?〟ということ
をコーチが説明され、参加者の中でも経験がある受講者との模擬コーチングを見せていただいた後、参加者同士がペアになってコーチングを楽しみましょうという時間になったのです。
お母さんは、参加したことを後悔する気持ちでいっぱいで、その場にいたたまれなくなって今にも席を立とうと、そわそわと落ち着かなくなりました。
そんなお母さんの気持ちを察してか、本間コーチが「よろしければ、私とペアになっていただけますか?」と、声を掛けてきました。
お母さんは、とっさに、「コーチとペアになったら、みんなの前でしなければならないのでは?」という思いを抱き、「申し訳ないんですけれど、私、途中で帰らなければならないので・・・」と、やんわりと断りました。
しかし、本間コーチは、「あら、お忙しい中お越しくださったんですね、ありがとうございます」と、笑顔でお礼を言ってくれるのです。お母さんは、嘘をついたこともあり、ますますいたたまれなくなって、「あの、皆さんの前で、模範演技をするんでしょうか?」と、聴いてみました。
本間コーチは、「いえいえ、あ、そうですね。言葉が足りませんでした。模範のロールプレイングはいたしません。安心してくださいね」と、どこまでもお母さんの気持ちがロールプレイングをやってみようかしらと前向きになるように、配慮しながらやんわりと迫ってきます。
お母さんは、少しだけなら体験してみようと思い「では、ちょっとだけ・・・」と、下を向いたまま答えコーチのお誘いを受け入れたそうです。
自分の優柔不断さで皆さんをお待たせしてしまったことが情けなくなり、お母さんは小さくなっていました。「私はいつもそうだ。自分の不得意なことから逃げようとするし、進んで参加しようと思って申し込んだのに、こういう結果になってしまう」お母さんは、すっかり暗い顔になって自己嫌悪におちいってしまいました。
「では皆さん、十分後、相手から満足の拍手をもらうという目標に向かって、コーチングをはじめましょう。楽しんでください。お願いします」と、声を掛けました。
そして、お母さんにも「どんなことでもいいんですよ。あなたが今、率直に話したいと思うこと、お話しください。ここで話されたことは、決して、あなたの許可なく勝手に皆さんに話すことはありません。安心してくださいね」と、穏やかに促されました。
お母さんは、ほんとうに迷いました。子どものことを話したい、でも、ほんとうのことを言うのは、恥ずかしいと思ったのです。
躊躇しているのがわかったのか、本間コーチは、「話していいかどうか?ためらっておられるのですね?」と、質問をしてきました。お母さんは、仕方なくうなずきました。
「あなたが抱えている問題を、私くに話しても良いと自分に許可を与えるためには、どんな条件が必要ですか?」と、重ねての質問です。
「うん・・・、私の悩みが恥ずかしいことだから言えません」お母さんは、本間コーチの質問の答えにはならないことを感じながら、あえて、自分の言いたいことだけを返事しました。
「ありがとうございます。やっと自分の言葉で思いを表現してくださいましたね」と、コーチはにっこり微笑むのです。
「あの、私の答えは、本間さんの質問の答えではなかったように思いますが・・」と、お母さんは率直に伝えました。
本間コーチはそれでも更に、お母さんを褒めるのです。「いえいえ、そんなことはありませんよ。どんなことでもいいですよと申し上げましたでしょう?」
「ええ、そうですけど・・」お母さんは、どんなことを言っても、本間コーチが否定しないことに気づき、受け入れてもらっているというか、居心地がいいというか、包み込まれているような感覚に、すこしづつ、重い心と口を開いていきました。
十分後、お母さんは、コーチがタイマーを止めることでようやく口を閉じるほど、熱心に「子どもに協調性がないかもしれず、将来を不安に思っていることや子育てを難しいと感じていること」を本間コーチに伝えようと、必死で話をしている自分に気づきました。
ロールプレイングは、先ほど聴き役だった人が話し役になると、役割を変えて再度十分間繰り返して行われました。お母さんも、先ほどの本間コーチをまねして、汗をかきながら、必死で聴きました。
八分ほど経過したころでしょうか?「ほんとうは、私が聴かれる役だから、質問するのはルール違反ですが、役得ということにしましょう。最後に質問してもいいですか?」と、聴き役も十分体験させていただいた後、お母さんは、本間コーチから質問を受けました。「あなたは、日ごろお子さんの話を、何かをしながらついでに聴いているようなことはないですか、真剣に聴いてあげたことがないのではないですか?」
これぞまさしく、お母さんがロールプレイングをしながら先ほどから感じていたことでした。そのことを見抜いたかの様なコーチの質問に、お母さんは思わず正直に答えました。
「はい。私は自分のペースで生活していたようです、子どもの話も、うわべでだけ聴いていました。こんな調子で子どもにだけ協調性を求めるのは、かわいそうだと今感じていました」
お母さんは、二時間のコーチングセミナーを十分に楽しみ、帰り際に、本間コーチに歩み寄り、「コーチとペアになることが不安で、時間がない、途中で失礼するなどと嘘をつきました。ごめんなさいね。今ではこのコーチングセミナーに参加させていただき、コーチとロールプレイングが出来てほんとうによかったと思っています」と謝りながらお礼を言いました。「私のほうこそ無理にロールプレイングのお誘いしてごめんなさい。少しでもコーチングを楽しんでいただけたでしょうか」コーチにそう言われて、お母さんはスッキリ心の中の荷物を全部降ろしたかのような表情で、会場を後にしました。
コーチングの魅力のひとつに、心の中を整理するということがあります。誰かにゆっくり話を聴いてもらうだけで、心の中がずいぶん整理出来ることを、お母さんは身をもって経験したようです。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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