若いお母さんの思いが娘さんに通じていません~自分の人生の不幸はすべて家族が引き起こすと考える母親の視点を変えさせる~

今回は、若いお母さんと子どものコーチングです。三〇代の女性の心は、とても揺れるものだと考えさせられるセッションでした。
「おはようございます。この秋を何で感じましたか?」
「(きりっとした姿勢のまま)はい、子どものダンスのオーディションに落ちたことで、今シーズンの終わりを感じました」

「ん?・・・前回おっしゃってたお嬢さんのダンスのオーディションの結果が発表されたんですね?」
「はい、審査員の方の見る目がないんでしょうねぇ・・。明らかな『えこひいき』を感じましたが、結果は覆りませんでした」

「え?・・・結果に不満足だったんですね?」
「はい、一緒に受けた仲の良いお友達のお母さんもおっしゃったんです。絶対にうちの愛ちゃんのほうが上手かったって。だから、審査員に評価基準を公開してくださいとお願いしたんですけど、それは出来ないって・・・」

「愛ちゃんはなんておっしゃってるんですか?」
「愛とはダンスのオーディションが終わった後、喧嘩して以来、口をきいていません。結果が出た以上、愛も反省してもらわないと・・。あんなに『社会は厳しい、もっともっと寝る間も惜しんでレッスンしないとダメだって』言ったのに、『ママの言うとおりにしたんだから、文句言わないでよ。ママの夢と私の夢は一緒じゃないの!いい加減にして・・』と言ってむくれているんです。私だって、お盆も里に帰ることもせず、愛のレッスンの送り迎えや、先生の言うように栄養管理したり、体重管理したりして頑張ったのに・・・」

諏訪さんの表情から、怒りが消えた途端、深い悲しみがにじみ出ました。

「諏訪さん、諏訪さんの夢は何ですか?」
「私の夢ですか?一人娘ですから、愛が幸せになることです」

「諏訪さんの想像する愛ちゃんの幸せって?」
「まず、経済的に自立して、男性に頼らなくても生活出来るほどになっていること」

「なるほど、経済的な自立が第1基準ですね。他には何かあるのかしら?」
「いえ、男性社会の中で生き抜くためには、男より秀でた何かを身につけていなければいけません。
それさえあれば、何とかなると思うんです」

「愛ちゃん本人の夢は?」
「愛はまだ一〇歳です。夢なんてちっちゃなものに過ぎないでしょう。だから、親の私が道を決めてあげるのが役目でしょう?」

「諏訪さんの今の姿は、諏訪さんのご両親に決めてもらったものですか?」
「私は自分で決めました。それで、今、後悔しているんです」

「ご主人はどんな意見なんですか?」
「主人は、男ですから、社会の中で困ることはありません。部長にまでなっているし、将来は役員候補者ですから、私たち女がどれほど苦労するかなんて分かりませんよ!愛がこんなに頑張ったのに、励ましの一つの言葉だってない。『俺はお前たちを養うために一生懸命嫌な仕事でも頑張ってるのに、これ以上、何を協力しろって言うんだ!』と言って・・・。愛のレッスンで遅くなって食事の支度の手間を掛けられない日に限って早く帰宅して・・。私の苦労なんて何にも理解しないんです」

「愛ちゃんは、そんなやり取りをどんな気持ちで聴いてるんでしょう・・
「父親の薄情さに呆れているんじゃないですか?そうじゃなきゃ、父親そのものを嫌いになったんじゃないですかね?」

「ご主人にとって愛ちゃんはどんな存在ですか?」
「養う人が一人多いってくらいでしょ?男親なんてあてにならないんです。母親だからこそ、愛情があるからこそ、出来ることですわ」

「そうですね。諏訪さんの母親としての愛情の深さが伝わってきます。と、同時に、それが押し付けになっていないかが心配でもあります」
「押し付け?コーチは、愛は嫌がっていると思ってらっしゃるの?それは違います!愛だって、二位の結果に満足出来ないと言っています。優勝して、留学するチャンスを逃したことをすごく後悔しています。ただ、愛は『まぁ、しょうがないじゃん、私の実力だから・・』と言って平気でいるんです。それが許せなくって・・・」
「ほんとうに愛ちゃんは平気でいるんでしょうか?」

「だって、あれ以来、自宅でのレッスンはしないし。お友達と遊んでばかり。授業だって、本戦出場が決まってから三週間ほど休ませてレッスンだけさせたから、遅れているのに、勉強もしない。英語の塾もなんかかんか理由をつけて休んでるし」
「英語は、留学して言葉に困らないためでしたっけ?」

「はい、コミュニケーションが取れないと、心が縮まりますから。アメリカに行っても言葉で挫折したら意味がないでしょ?」
「学校にいる時間と、塾やレッスンする時間と、あわせたら何時間になりますか?」

「十三時間半くらいかしら?」
「子どもの生活時間としてふさわしいんでしょうか?」

「他のお子さんのように、今遊んでたら将来、男に使われる普通の生活しか出来ません。主婦になることが悪いとは思いませんが、人の顔見れば『飯は? 風呂は? まだ出来てないのか・・、これは今日、昼に喰ったおかずと一緒』とかって、文句ばっかりいう男にだけは、嫁がせないようにしなくちゃ。
私の人生は、こんなんじゃないはずだった。夫が働かないで家にいろというから・・」
「諏訪さんはご自分の人生に点数をつけるとすると何点つける?」

「マイナス三十点って気分です。職場の上司にも認められず、夫にも恵まれず。愛は結果が出せないし。ホントに不幸ですよ・・」
「ご主人とは恋愛結婚でしたでしょう?」

「いつまでも愛情なんてあるはずがないでしょ?あんな薄情な男のことはいいんです。私を不幸せにしたんだから、せいぜい愛のレッスン代や、生活費のために働けばいいんだわ」
「ご主人は、お嬢さんのレッスン代や、生活費のために働けばいいんですか。もし、働きすぎて身体を壊されたらどうしますか。そうなったらそれでご主人はお払い箱ですか?」

「そんなことはしません。主人が病気になったら私が看病するし生活費だって私が何とかします。でも、今の主人の態度は許せません」
「うん・・残念ですが、諏訪さん、今日は時間が来てしまいました。今日のセッションを振り返って、何か感じることはありましたか?」

「はい、改めて夫の薄情さと、愛の反抗的な態度が、私を苛立たせているということです」
「次回までの宿題としてご主人と愛ちゃんの感情を推し量ってみていただけますか? 諏訪さんのどんな言葉に、愛ちゃんが反抗するのかとか、ご主人から厳しい言葉を聞くのかということを観察してきてください。メモを作っていただければ尚いいですね。」

「分かりました。やってきます!」
人の心は自分でコントロールしなければなりません。また、愛ちゃんのためにも諏訪さんのためにも、ご主人のためにも。自分の人生はみんな自分のものであることに気づいて、自ら考えを変えない限り、行動も結果も変わりません。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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