コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

異動先の理解のない上司に悩む~職場異動を命じられ、戸惑う社員に自分の役割を考えさせる~


中堅ハウスメーカーに勤務する茂手木さんは、ベテランの営業マンでした。
ところが、長年の実績を高く社長から評価されていたにもかかわらず、昨春、管理部門に異動になりました。納得がいかない茂手木さんは、勇気を出して社長に面談を求め、今回の異動の目的を尋ねたそうです。
社長は、「管理部門のテコ入れだ。あそこは昼間だらだらしていて、夕方になると残業代稼ぎのために仕事に励む。会社はそんな無駄な金は払えない。まあ、それは一例としていろんな面で役割を果たしていない。君に任せるから、建て直しをしてくれ」と言われたそうです。
ところが、茂手木さんの肩書きは、営業のときのまま、「課長代理」。茂手木さんの上には課長がいるわけです。
「代理の肩書きでどこまで仕事をしたらいいのだろうか?
堀田課長は自分のことをどう受け止めてくれるんだろうか?
みんなと仲良く仕事をしないと管理の仕事が回らないばかりか、製造はじめ各所に迷惑かけることになってしまう。どう調整してあるんだろうか?」と、不安な気持ちで新しい席へと異動したそうです。

案の定、管理課長の堀田さんは、茂手木さんの異動の目的を社長から聞かされておらず、最初こそ自分の提案を熱心に聴いてくれていたそうですが、このごろでは、「君が口出しをすることではない。営業では実績があるだろうが、ここではまだ1年目なんだ、じっくり仕事に取り組むためにも、私たちの仕事を真似てみたらどうだ」と、いなされてしまい、困った茂手木さんはコーチとのセッションを希望しました。

「茂手木さんですね? おはようございます。今日のテーマを決めましょうか?」
「はい、・・あの・・・職場にリーダーがいなくて・・・。私は課長代理と言う肩書きで、今、管理部門で仕事をしています。課長はいるのですが・・・良い管理をするために業務改善や業務改革をしようという意欲は感じられません。部長は、社長の意見をすぐに自分の意見にして受け入れることは出来ても、私から見たら、社長から言われたから受け入れているだけで、どうしたらそれが出来るかという具体的な戦術を考えることが出来ません。私は、こういう人を上司として仕事をしなければならず、どうしたらいいか、わからなくなってしまったんです」

「課長代理として、組織の構成員として注意すべきことはなんですか?」
「はい、課内では、私にも上司がいるわけですから、上司より上に出るようなことがあってはなりません」

「具体的な行動に限定すると?」
「課内での決定は、課長に判断をゆだねると言うことです。それと、課外の調整は、課長の指示や許可がなければしてはならないと言うことです」

「なるほど、組織論を忠実に守りたいと言う気持ちが強いのですね?」
「はい、ただ・・・課長は、現状の仕事の進め方で良いと思っており、社長がそれではダメだと思っているということを知らないので、どうしても、前に出ざるを得ないというか、社長の期待にこたえて、結果を出して早く営業に戻らせて欲しいので、理想どおりには行動出来ずにイライラしているんです」

「なるほど、理想どおりに行動出来ないからイライラしているんですか?それとも、営業に戻りたいからイライラされているんですか?」
「え?営業に戻りたいから?ですか・・・そんなふうに自分の気持ちを考えたことがないので、意外でした。でも、そうかもしれませんね。課長が動かないことにイライラしてるし、今のこの状況が嫌で嫌でたまらないんです」

「営業の仕事がお好きなんですね?」
「はい、大好きです。お客様の顔を見て話をするのが好きなんです」

「そんな大好きな仕事を取り上げた社長に対しては、どんな気持ちですか?」
「うん・・・管理部門に異動になったことが嫌なのではなくて、社長は私の異動をちゃんと課長や部長に言っておいてくれてないことに不信感を覚えています」

「信頼していたのに、残念という気持ちですか?」
「そうですね。不信感でいっぱいです」

以外にも、上司に対する悪いイメージばかりを並べる茂手木さん。
コーチは、指摘したいと思いながらも、もう少し話を聴いてみようという姿勢を保ちます。

「職場をどんなふうにしたいのですか?」
「もっと活発にお互いが意見を言い合ったり、仕事に責任を持つ社員の集まりにしたいです」

「管理は、もともとが目立たない部署ですし、社長もこれまであまり目をおかけにならなかった。だから、人も育っていないし、責任感とか、リーダーシップとかも身についていないんじゃないですかね」
「すべての部門に満遍なく社長が力を入れることは難しいのではないですか?」

「まぁ、そうですけど・・・」
「さて、茂手木さん、茂手木さんの現職場での使命はなんですか?」

「使命ですか?・・・使命ねぇ。わかりません」
「社長のおっしゃった『君に任せる、テコ入れ』にどんなイメージをもっていますか?」

「そういえば、具体的に何をしろとは言われていませんね。だらだら仕事をするということでしたが、実際、業務のボリュームと作業量があっているのかも分かりません」
「では、どんな提案を堀田課長になさったんですか?」

「残業を減らしましょうと・・・」
「どんな方法で?」

「とにかく週1日、残業なしの日を設けましょうと・・」
「堀田課長の反応は?」

「いや・・・無視されているというか、一度検討しようと言われたままで、具体的な指示も評価もありません」
「どうしても残業なしの日を作る必要があるとしたら、その理由は何ですか?」

「特にあるわけではありません。社長が残業代が無駄だとおっしゃったので・・」
「ようやく1年、仕事を経験して、残業は無駄な時間でしたか?」

「いや、実際、大変なんですよ。値引き交渉も、長年の取引先はなかなか応じてくれなくて。1社の交渉に二時間くらいかかるんです」
「その交渉は、営業時代のスキルが役立ちますね?」

「はい、確かに・・。管理の人はどちらかというと交渉が苦手のようで。よく、茂手木さん、助けてくださいといわれます」
「そんなときはどうなさるんですか?」

「はい、手が空いていれば助けて取引先と交渉しますが、手が空いていなければ断ります」
「そんな茂手木さんを上司はどう感じているのでしょうか?」

「ん・・・協調性のない奴だと思っているのではないでしょうか?」

茂手木さんは、堀田課長の気持ちも、他の社員の気持ちも理解出来ていません。
自分の役割も理解していません。
自分は特別と思いたい気持ちや、社長との信頼関係をこれ以上失いたくないという気持ちが強いことは理解出来ますが、職場の皆と強調しなければ仕事は進まないことを理解出来ていません。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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ベテラン駅員さんの苦悩~若い駅員のモチベーションを上げる~


地方では大きな花火大会が開催される日に、終日、気が抜けないのは、会場係員や会場に一番近い駅で働く人たちです。
今年も無事に? 花火大会を終えたある私鉄の駅員さんとのセッションをご紹介します。

「この間の花火の日、コーチはどこにいらしたんですか?」
「残念ながら、私は出張に出ておりました。立花さんは、勤務日だったんですよね?」

「ええ、もちろんです。すごい人出でしたよ。日ごろは千人という単位でのご利用者がいるわけですが、花火の日は、万人に膨れ上がります。大きな事故がなかったことがせめてもの救いというか、自分たちへのご褒美ですね」
「お疲れ様でした。良かったですね。事故が起きずに済んだのは、皆さんのご努力のおかげでしょう」

「ありがとうございます。迷子や、忘れ物は、相変わらず、例年通りでしたけれどもね。面白いといったら不謹慎だと思うんですが、浴衣ブームだったでしょ?帯が外れた子供がいたようで、帯の忘れ物が一件ありました。びっくりしました」
「すっごい忘れ物ね。帯が解けたら気づきそうなものですが・・そういう親御さんだと、お子さん忘れても気づかないかもしれないですね」

「笑い話じゃないですよ。何年か前に、男の子が駅に置き去りにされたことがありました。可愛そうだったのは、駅に着いたばかりで改札口を通る前だったから、しばらく親御さんが迎えにいらっしゃるまでに時間がかかって、男の子は、花火をここから見ていました。まるで、駅に泣きに来たようなもので・・」
「親御さんは、はぐれたことにも気づかれなかったんですか?」

「いや、まさか。でも改札口ですでにはぐれたとは思わなかったようで、花火の会場の中でずっと探していらしたということでした」
「そうですか、いろんなドラマが駅にはありそうですね」

「ええ、そうですね。迷子になった子供とせっかく会ったのに、いきなり子供に向かって『だからちゃんと手をつないでなさいと言ったでしょ!』と、怒り出すお母さんがいて。子供の頭を叩くんですよね。僕らからしたら、子供より、お母さんを叩いてやりたくなります。
もちろん、ぐっと我慢ですけれどもね。ところで、このごろの若い駅員は何を考えているか、ほんと、理解出来ないですね」
「深くため息をつかれましたが、何か強くお感じなる出来事でもありましたか?」

「ええ、こういう日は、駅の改札口の外に出て、整列入場をお願いするんです。何メートルも前から並んでいただけると、駅構内への入場が結果的に早くなるからです」
「なるほど」

「でも、駅舎から出て、拡声器で整列を呼びかけるのは、慣れないと恥ずかしいものなんです。自分たちのころは、若い駅員の役割だと思って、恥ずかしくても率先してベテラン駅員に指導を受けて、自らかって出たものですが、今の若い人たちは、出来ればそんな恥ずかしい仕事はしたくないと思っているんです。だから、時間を決めて、ローテーション表で管理して、指示しなければならない。こんな忙しい日に、ローテーション表と首っ引きで若い連中が持ち場についているかなんか確認しながら、仕事は進められません。お互い、チームワークよく自分の仕事を自分で見つけながら進めるべきなのに・・」
「なるほど、自発的に動かない。気配りもない仕事ぶりにいったい何を感じたんでしょう?」

「とにかく仕事への意欲のなさにはほとほと嫌気を感じました。鉄道が好きで、小さいころから電車の運転手に憧れを感じて鉄道マンになる人は多いのですが、今の若い人は、就職先の一つが鉄道会社だったっていう感じかな?」
「うん・・若い人の気持ちは分かりませんが、立花さんが、若い人の勤務態度を不快に思う気持ちと鉄道を愛していることは理解出来ます」

「ありがとうございます。こういう話って、家でしても女房は、『そんなに腹が立つなら、もっとちゃんと指導すればいいじゃない?あなたの指導力が問われちゃうかもしれないでしょ?』なんて具合で。ちっとも理解してくれないのに、コーチと話をすると、問題そのものが解決しなくても、まず、ほっと出来るからいいですね」
「ありがとうございます。気分が晴れるという感想をいただけるのは嬉しいです。しかし、立花さん、ただの愚痴話に終わらないためにも、今後、どんなふうに指導したいかを考えてみてはいかがでしょうか?」

「そうですね。僕たちが引退したら、花火の日に駅構内で事故が起きたなんていうことになったら、寝覚めが悪いですからネェ・・」
「一番気にかかることは、構内での事故のようですね」

「それに一番神経を使いますよ。だれにも怪我させずに運行することは、とても大変なことです。当たり前のようですが、当たり前ではない。だから、出来る限りいろんなところに神経を配って、事前にイメージトレーニングして危険回避出来る駅員を養成したいと思っているんです」
「構内での事故を未然に防ぐことは、誰にとってメリットがあるのでしょうか?」

「駅をご利用いただくお客様と駅員の双方です。お客様の安全も確保出来るし、お客様を安全に目的地までお運び出来たら、駅員も自分の仕事に誇りがもてるのではないでしょうか?」

「そうですね。お客様の満足を得ることも大切だし、同時に駅員の満足も高めたいということですね?」
「そうです。どちらかだけじゃ、いけないような気がします」

「それを、若い人たちに伝えるために、どんな言葉を考えますか?」
「そうですねぇ・・・やる気があるのか、仕事が好きなのかが分からない若い連中に、こんなことを言ったら、却って押し付けになるでしょうか?」

「そうですね、今は、相手の気持ちを推測することは出来ても、本心かどうかがつかめませんね。そうであるならば、まず、その辺りからじっくり話を聞いてあげたらいかがですか?」
「そうですね、でも、ただ話を聞くだけでいいんでしょうか?」

「さきほど、奥様との会話にヒントがあるのではないですか?」
「というと?」

「奥様に話を聞いてもらいたいと思って、仕事のお話をなさるけれども、満足感が得られないのはなぜだか分かりますか?」
「うん・・・女房は、何かと意見を言いたがるんだよね。ただ、一言お疲れ様とか、それでもよくがんばっているねって言って欲しいだけなのに・・・。うん、そうか!若い連中の話を聞いたら、それなりにがんばっていることを認めたらいいのかもしれないですね?」

「そうですね。人にはみんな、人に認められたいという願望があると思います。だから、幼稚な考えや行動だと思われても、そのレベルに応じた行動であったり、考え方であれば、それを認めてあげたり、褒めてあげてはいかがでしょうか?」
「うん、それはいい。といってもすぐに褒められるようになるか、ちょっと不安ですが、出来る限りやってみます」

「はい、では二週間後、確認させていただくこととして、今日はこれで終了にしましょう」


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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年上の部下の扱いに悩む若手の室長~苦手なタイプの年上の部下とのコミュニケーションを考える~


若くして広報室の室長となった平沢さんは、連日、頭を抱えています。
この春、部下として年上の社員が配属になったのですが、この部下が、ことあるごとに平沢さんに挑戦的な態度をとっており、自分をさしおいて直接若手に指示を出す始末で、指揮・命令系統にも影響が出ているばかりでなく、チームワークにも問題が発生しています。

若手社員は、自分に都合のよい指示を出す年上の社員に従うことが多く、室長である自分の指示を無視した社員の仕事の後始末におわれてしまったり、反対に必要以上に上司に甘えを見せ、与えられた仕事に取り組む前に答えを求めようと相談にくるため、それに答える時間が長くなり、自分の仕事がはかどらずやむを得ず残業を繰り返す毎日になっていました。

平沢さんと初めての出会いのとき、平沢さんには目に力がなく、笑顔も見られず、正直、セッションが成立するかが心配だなという感じでした。
案の定、平沢さんは、「どんなことでもお話くださっていいんですよ」という私の誘いにも乗らず、ただ、じっとうつむくだけでした。

このままでは、平沢さんの心が開かないと感じたので、直感ゲームをしてみることにしました。
思い切って、キーワードに対して直感で感じたことを言葉にしてほしいと提案。何が始まるのか?と、平沢さんは不安そうでしたが、「ゲームのような感覚で取り組みましょう」という誘い掛けに、ようやく首を縦に振るという動作で、承認してくれました。

「春」『社内異動』、「さくら」『はかなさ』、「日本」『閉鎖的?』「ビジネス」『忙しい』「部下」『・・・』
ここで、平沢さんの口はまた、堅く閉ざされてしまいました。

「平沢さん、今の連想ゲームをやってみてどうでした?感想を教えていただけますか?」
私の問いかけに、平沢さんは、「そうですねぇ・・・・私は発想力が乏しいのでしょうか?あまりすっきりした答えが出ていないように思います」と、おっしゃいました。

「私が率直に感じたことをお伝えしたいのですが、かまいませんか?」と伺うと、平沢さんは、「どうぞ、何でもおっしゃってください」と許可してくれました。

「はかなさ、閉鎖的、忙しい・・。三回続けて気持ちがふさがっていることを感じさせるような言葉が続きましたね」
率直過ぎたかな?と思いながらも、平沢さんの表情を観察していると、
「そうですね。自分はこんな人間じゃなかったはずなのに、どうしてだろう・・・
年上の人が部下となって異動してきたんです。彼が配属されてから、おかしくなっちゃたような気がします。年上の部下って、プライドが高く、挑戦的で、どうしていいか分かりません。
彼が私を見下した態度をとるので、若手の部下も軽んじているような態度で私に接してくるし。
さりとて、自分の仕事が進まないと、助けてくれるのは当たり前という感じで、助けを求めに来る。
私だって、新聞社やテレビ局との付き合いや会議の出席予定だってある。その合間をぬって、部下との相談時間を持つことは、大変に厳しいんです。でも、それをしないと、年上の部下になめられるような気がして・・・。
どうして、そんなに私の指示を素直に受けられないのか?私には思い当たる節がないんです。
強いて言えば、私が若くして室長となったことが、彼に気に入らないのかもしれません」

ようやく、重い口を開いてくれた平沢さんですが、その口から出る言葉は、ネガティブな思考の延長線上にあるものばかりでした。

こんな時は思い切ってコーチングをせず、カウンセリングにしたほうがいいのでしょうが、もう少しだけ、コーチングのセッションを試みることにしてみました。

「平沢さんはその年上の部下とどんな関係を築きたいのでしょうか?」
「え?・・・」少し考えて、平沢さんはきっぱりとこう言いました。
「私の言うことに従ってくれる部下になってほしい」

なるほど、確かに指示を受けてくれる部下は必要ですが、ベテラン社員としての強みを発揮しなくてもよいのでしょうか?

「会社としては、平沢さんの部下として、年上の人を配置したということは、その人に対して黙って指示に従ってるだけを求めたのでしょうか。若い人がもっていないベテランのよさを発揮指せようとしたのではないですか?」
私の質問に、平沢さんは、じっくり考えた末、「そうですね。それはそうですよね。でも、彼は年上の自分への配慮を持っていないような気がします。言葉だって乱暴だし。粗暴な感じがするんです。バブルのころの担当者じゃないんです。今の時代は、スマートさや優しさが必要なんです」と、心の中に澱のようにたまっていた年上の部下への思いがようやく吐き出され始めました。

「その部下は、どんな表現をすることが多いんですか?」
「これやれとか、ああしろとか、組織上、自分の方が立場が上なのに、お構いなしです。もちろん、若手の部下にも同じかかわり方をしています。歳が下ならまだしも、役員にもそういう態度をとるから、昇進だって出来なかったんだと思いますよ」

「つまり、平沢さんに対してだけ、横柄な態度や口の聞き方をしているわけではないのですね?」
「・・・(じっくり考え)そうですね・・それは私に対してだけではないですね」と、平沢さんは返してきました。

「指示を受けないことが、異動後、どのくらいあったのでしょうか?」
「たびたびかなぁ・・。でも、そういえば、口答えはするけれども、私の指示を受けなかったことは一度もないかもしれない。私の指示が明確でないときや、目的を知らせずやらせようとして若手の困惑を感じたりすると、彼がみんなを代表して質問していたのかもしれません」

「そうですか、平沢さん、年上の部下のこと、初めて違う眼で見ることが出来たように思います。私は、それを嬉しく思います」
その言葉がどう作用したかは分かりませんが、平沢さんは、はじめのときと打って変わって、積極的に答えてくれるようになりました。
「私も彼を誤解していたかもしれません。私の足らないところを補ってくれていたのかもしれません。私とは違って、粗野ですが彼は彼なりにやってくれていたようにも思えてきました。彼のいいところを見るようにします。それと、これは反省ですが、年下の上司ということで年上の部下への対抗意識が強すぎて、私も肩に力が入りすぎていたような気もします。すこしリラックスしてみよう思います」

私は平沢さんの急激な変化に少し戸惑いました。仕事場に戻って年上の部下の顔を見たときに、すぐに実行出来るのか少し不安です。なぜなら平沢さんは変わりたいという思いを手にしましたが、、年上の部下が、平沢さんの変化を理解するまでは、情況がすぐに変ることはないと思うからです。

平沢さんは、その後十回のセッションを通して、苦手なコミュニケーションタイプの部下とどう向き合うか考えました。今では、ちょっと乱暴で仕切りたがる年上の部下との関係を良好にしながら指揮をとり、活躍中です。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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スーパーの女性係長 ひとりからまわり~真の障害に気づく(苦手な人とのコミュニケーション)~


地域でも敏腕女性経営者として有名な女性が社長をしているスーパーで働く木下さんは、今年の春から係長になりました。

鮮魚コーナーと惣菜コーナーを任されることになり、張り切っていますが、女性ばかりの職場で、何か新しい試みをしようとしても、いつも反対ばかりされて埒が明きません。

年中無休のスーパーなので、女性のパート社員のシフトを組むのが係長としての重要な仕事になっています。各自休みたい日をメモして提出するのですが、全員の都合を全て満足させることも出来ないので係長が本人と調整するわけです。忙しさからうっかり、その調整を忘れてシフトを組もうものなら、もう大変です。無視されて、しばらくは口も利いてもらえないばかりか、指示や命令に従わず、業務に支障が出来る始末です。

こんなことなら、役付きになんかならなければよかったと思い「係長をおろして欲しい」と社長に相談に行ったところ、社長も女性であるからか、「そういう人を上手く束ねるのがあなたの仕事でしょう。同じ女性同士なんだから話せば分かるわよ」といなされるばかりで、八方塞りな想いが強まって、会社に行きたくないという気持ちで一杯です。

そんな時、市役所の生涯学習の講座に「コーチングはコミュニケーションを豊かにする」と題した六回シリーズがあることを知り、木下さんは応募してきました。

まず、自己紹介です。自己紹介からコーチング講座が始まっており、自己紹介のテーマは「今の気持ちを受講生同士伝え合うという」ものでした。「さぁ、では木下さんの自己紹介についてはいかがでしょうか?」と、明るい声のコーチの呼びかけに、受講者の一人が元気よく手を上げて発言しました。

「はい、木下さんの挨拶の良いところは、まじめにはっきりと自分の気持ちを言葉に出来たところです。もっと良くするためには、笑顔でスピーチされることです。緊張なさっているんでしょうけれども、自分の顔の向こう側には、相手の顔があることを意識しないと、自分本位の挨拶になってしまうと思います」。

あまりに見事な切り口で、堂々と指摘された木下さんは、いつもなら、面白くなくてすぐに受講そのものを辞めてしまうのに、今日は腹立たしい思いを感じないで座っていることが出来ることに、不思議だなぁと感じました。

「田中さん、ありがとうございました。他の方いかがでしょうか?」講師の促しに、その後三人ほどが手を上げて発言しましたが、どれも自分の良い点を褒め、悪い点ははっきり指摘してくれており、なるほどこれがコーチングなのか!と、期待が高まるのを感じました。

木下さんは、1回目の講座の翌日は、何となくスッキリした顔で職場に出ましたが、相変わらず挨拶もろくにしてくれない職場の仲間に会うと、自分以外は全員抵抗勢力のように思えてならず、仕事が楽しいはずはありません。しかし、異動を希望したら自分の負けだと思い、心を奮い立たせながら働いていました。鬼のような形相になっていたかもしれません。

何となく木下さんの表情に変化を読み取った、常連のお客様からは、「木下さんがオコゼみたいよ」と、からかわれてしまうこともたびたびありましたが、にらみを利かせていないと、また、どんな反乱にあうかわからないと思うと、気が抜けなかったのです。 

いよいよ四回目の講座の日、自分がクライアントになってコーチングのセッションを受けるロールプレイングを体験出来る日になりました。

コーチ役の受講生は活発に発言する方で、同じ受講生であり、同じときにスタートしたのに、私は遅れをとっているような気がして、少し苦手なタイプでした。

「さぁ、木下さん、今日のテーマは何にしましょうか?」コーチ役の女性ははきはきとセッションを進めようとします。「はぁ、古参女性社員のマネジメントについてお願いします」木下さんは、遠慮がちに言いました。

「木下さん、ちょっと緊張していらっしゃいますか?リラックスして、セッションを楽しみましょう。そのためにも、今の緊張感を数値で表してもらってもいいですか?」
「はぁ、緊張してます。九〇点くらいかなぁ・・」
「九〇点。それは高いですね。リラックスするために、私がお手伝い出来ることがありますか?」
「いえ、はぁ、あの・・」たたみかけるように質問してくるコーチ役の女性の声に接して、まるで、会社でベテランのパート社員から嫌味を言われているような気持ちになりました。

木下さんは、苦手なタイプの女性を前にすると、言いたいことも、自分の感情を言葉で表すことも出来なくなり、笑顔も出ず、相手をにらみつけるようにして接してしまうことに気づきました。この苦手なタイプの女性の受講生ではなく、出来れば、男性の受講生にコーチ役を代わってもらいたいと思うのですが、せっかくコーチ役に立候補してくれたのに、断っても悪いと思い、「お願いします」といってしまった手前、何としてもこの時間を乗り越えるしかないと思い込んでいるのです。しかし、何とか答えなくてはと思えば思うほど、言葉が出てきません。
そんな様子を見かねたのか、講師の先生が声を掛けてくれました。

「新井さん、コーチ役変わっていただいてもいいですか?」コーチ役の新井さんは、ちょっと悲しそうな顔をしましたが「はい、木下さんと相性が悪いみたいなので変わってください。」
と笑いながらコメントしながら、コーチ役を講師とチェンジすることに同意しました。

「さぁ、木下さん、今日のテーマは古参女性社員のマネジメントについてでしたね。本来なら、このセッション後、木下さんは、どんな気持ちを手に入れたいか、ゴールを決めたいところですが、先に現状をたな卸ししてみましょうか?よろしいですか?」
ソフトな講師の語り口に穏やかな気持ちを取り戻した木下さんは「はい、お願いします」と同意しました。

「ずばり!伺いますね、木下さんは、どんな女性が苦手ですか?」
あまりの核心をついた質問に木下さんは衝撃を受けながらも、正直に話してみようと決心出来る何かを感じていました。先ほどの新井さんのときとは違うのです。

何が違うのか?そんなことを考えながらも、講師の質問に答えていく木下さん。どうやらきちんきちんと理詰めで話してくるタイプの人には、詰問されているように感じていたたまれなくなるようです。

セッションを終えるまでに、ほんとうの問題は、苦手な女性とのコミュニケーションがとれないことにあって、決してマネジメント手法に問題があるのではないことに気づくことが出来ました。

コーチングは、コミュニケーションを通して目標達成の支援をする仕事です。人と人が相対することだけに、相性が合う、合わないという問題に直面することがあります。

コーチングはコーチが自分のために行うのではなく、クライアントのために行うものなのです。基本的にはお互いのためにならないときには、勇気を持ってその関係を打ち切ることも大切です。

コーチとして大切にしたいことは、「支援する心」です。コミュニケーションの技術だけではなく、マインドが大切な仕事だけに、忘れないようにしたいですね。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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部下とのコミュニケーションがうまく取れない新任課長のコーチングです。~部下とのコミュニケーションを考える~


新任課長との出会いは、会社のコーチングルームに、予約なく訪問されることから始まりました。

「コーチ、ちょっと話したいことがあるんですが、いいですかねぇ・・」と腰をかがめながら入室された新任課長。
「どうぞ、どうぞ。はじめましてコーチの今井です。よろしくお願いします」と挨拶し、いすを勧め腰をおろしたところでさっそく「部下の山田のことですが、彼が何に悩んでいるのかわからんですが、山田は、この部屋ではどんなことを話題に話しているのでしょうか?」との質問を受けました。

通常、コーチである私は、守秘義務を職業倫理として掲げているため、上司であっても生命の危険等、緊急性が高いか、本人の承諾を得なければ話の内容を開示することはありません。

「ご質問は、山田さんの話の内容を明かしてほしいということでしょうか?」と柔らかく尋ね返すと、「いや、まぁ、何を話しているかを知りたいのはもちろんですが、何を考えているのかがわかれば、もう少し、彼をサポートしてやることが出来るのではないかと思いまして・・・」

「なるほど。部下の考えを知り、サポートしてあげたいと思っていらっしゃるんですね」
「そうです。山田は、何でも一人で抱え込んでしまうたちらしくて、それでは、彼の下にいる若いやつらも育たないですよね? それに、私は、仕事はチームですべきであると思っていて、個人が自分のマンパワーで仕事をするというのでは、異動になったとき困ると思うんです。それと、この間は、山田から、『自分は行政が主催する健康相談会に行ってきたが〝うつ病になりやすい。注意したほうがいい〟と言われた。それだけは避けたいというんです』。

まるで、私が「うつ病」になりやすくしてるみたいに言われてしまって、私こそ、どうしていいのかわからず、ストレスがたまる一方なんです。そんなとき山田がコーチングルームに出入りしていると聞いたもので、上司の私に話さないことをコーチに話しているのではないかと思うと信頼を裏切られたような気がしていてもたってもいられなくて、失礼を承知で押しかけてきたんです」
勤めて穏やかに話そうと心がけていらっしゃるように見えますが、怒りを強く感じさせる口調で話しは続きました。

「いくつかの問題を同時に抱えているように感じるのですが、一番初めに解決したいことは何でしょうか?」
「そうですね、まず、彼が何をしているのか、報告してもらったり、相談してもらえたりすればいいと思います」

「なるほど、報告と相談が必要なのですね。それが出来るようになると、課長さんにはどんなものが手に入るのでしょうか?」
「手に入るもの?・・・なんだろうなぁ。日ごろから報告や相談を受けていればもし彼に、スタンドプレーされても、安心出来るかな?
いまだと、何が起きるかわからないから、不安で落ち着けないことが良くありますからねぇ。いまより安心出来るんじゃないかと思うんです」

「失礼を承知で伺いますが、ご自身の評価に影響することだから、部下の行動が気になるのですか?」
「まぁ、そうですね。私は彼の上司ですからね。取引先の人から、私の知らない彼の行動を教わる私の身になってください。管理者としての能力がないような気持ちに追い込まれるんですよ」

「なるほど、管理者としての能力がないように思われるんですね。つらいんですか? 怒りを感じるんですか?」
「怒りですね。もう少し人のこと考えろって感じかなぁ・・」

「そうですね。課長のことを考えてほしいっていう感じですね。ところで課長が山田さんのことを〝人の気持ちや立場がわからんやつだ!〟とレッテルを貼って見ていることを、山田さんは感じているようですか?」
「うん・・それはどうかな?感じているんだったら、もっと積極的に自分から接触してきてもいいと思うけど・・」

「つまり、感じてないから、行動が変わらないとお考えなんですね」
「はぁ、まぁ、そういうことになりますか? よく分かりません」

「一つ、私が今感じていることをお話してもいいですか?」
課長は不安な表情を浮かべ、少し私の話を聴くことを躊躇しましたが、嫌だ!とは言えない様子で、私の意見を聴こうとします。

「課長さんから伺う山田さんの考えは、すべて課長さんの憶測(推測)でしかありませんね。これは、コミュニケーションの量が絶対的に不足しているから起こっているように感じられます。
1日のうちで、五分でもいいから。仕事の話でなくてもいいから、彼と話す時間を作ってみたらいかがでしょうか?」
「(無言)・・・」

「私のアドバイスが嫌だなぁというお気持ちがあれば、どうぞ遠慮なさらずおっしゃってくださいね。いかがですか?」再度促されてようやく課長は「話す時間を作るといっても、何を話していいか、それすら分からんのです。出勤したらすぐに出かけてしまう日もあるし。そうかと思うと、ずっとパソコンの画面に向かってぶつぶつ言ってるから、話しかけちゃ迷惑になるかもしれないと思うし。彼がしたいと思うことなら、どんなことでも課長の自分が責任はとってやれるから、やらせてやりたいと思うけど、そのためにも彼が何をしているかは把握しておきたいんです。そうじゃないと、私としても責任のとりようがありませんから」

「部下に寄せる思いはとても熱くていらっしゃるんですね。もったいないですね。そんな課長さんの気持ちが伝わっていないことが・・・。どうでしょうか?まずは、その自分の気持ちを伝えてあげるだけでもいいんじゃないですか? 聴いてほしいことがあるけれども、今いいか?と話し始められたらどうですか?」

「彼が忙しかったらどうしようか?」
「忙しければ忙しいで『今でなくてもいい』とつけ加えてみたらいかがですか」

「そうですね・・」
「そのほか、どんな言葉を準備したらいいと思いますか?」

「そうだなぁ・・・今日の予定は?と聴くとか・・」
「うん、それいいですね。一度、声をかける練習をしてみましょうか?私が部下をやりますが、いいですか?」

「そうですね。でも、子供じみてるし・・・。一度、席に帰って考えます」
入ってこられるときよりは、少しはすっきりした顔をなさった新任課長。でも、まだまだ肩に力が入っているから、会話の練習を子供じみていると思うのでしょう。もう少しリラックスして、自然に会話が出来るようになればコミュニケーションがとれるようになります。

コミュニケーションがとれず、強いリーダーシップも発揮出来ずに悩んでいるのは、自分に原因があることに気づいてくれる日があるといい。人を変えることは出来ませんが、自分が変わることが出来る。そう伝えてあげることが出来たら、もっと肩の力が抜けるのではないかと思いながら、背中を見送りました。


竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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