コーチング事例集:コーチ養成講座で実践的なコーチング技能と資格取得を。セミナー、研修、コーチングであなたの課題を解決

コーチング事例集

定年間近の先輩に対するお世話になった後輩のコーチングその2~後輩の言葉に将来のことを真剣に考えた先輩社員~人生の目標を見つける~


山崎さんは、三宅さんの言ったことが気になって仕方がなく、終業のサイレンがなると同時に、山崎さんは三宅さんに話し始めました。

「三宅さん、私は女房のことを何も知らないで生活していました。定年後は女房と二人の時間が長くなるわけだし、いまよりいっそう二人の生活が大切なものになるのに、女房が毎日何を考え、何をしているのかさっぱり分からないなんて、反省しなくちゃいけませんねぇ」と言う山崎さんに対して三宅さんは、

「いやぁ、山崎さん、案外奥様はこれまでの生活を楽しんでいらっしゃったんじゃないですか。それより、奥様は、旅行の具体的な計画のことご存知ですよね?」

「いやぁ、三宅さん、内緒にしてプレゼントしようと思っていてねぇ・・。まだ、はっきりとは言ってないんですよ。内緒のほうがいいでしょう?びっくりして喜ぶ顔を想像するだけで、毎日が楽しいですよ」

と言う山崎さんに三宅さんは申し訳なさそうに言葉を続けました。

「それは、奥様に早くおっしゃったほうがいいと思いますよ」
「え?どうして?」あまりに思いがけない言葉に山崎さんは、だんだん不安になってきました。

「退職後の生活設計は、どんなふうになさっているんですか?奥様と話されましたか?」
「いや・・何もまだ、具体的なものは話をしていない。でも、ゆっくりしたいと思うので、しばらくはずっとうちにいる生活になるかなぁ・・」
と言う山崎さんに、三宅さんはずばり!言いました。

「山崎さんが毎日ゆっくりなさるとすると、奥様はゆっくり出来るでしょうか?」
山崎さんは、三宅さんが何を言ったのか理解出来ず、不安になってしまいました。
「三宅さん、あなたは何が言いたいんですか?」
少し怒ったような口調になったことに気づきながらも、山崎さんは言葉を切り出しました。

「山崎さん、奥さんは毎日の生活を楽しむプロですが、山崎さんは、生活を楽しむための計画がまだはっきりしていませんよね?そうしたら、奥様は負担が増えるだけではないでしょうか?奥様にとって、家庭は職場でもあるわけですから、毎日お客様がいるような状態では、リズムも狂うでしょう。お昼ごはん一つをとっても、自分だけなら残り物で済ませるけど、ご主人がいたらそういうわけにもいかないわけです」
「それは、そうだけど・・・それでは、私はどうしたらいんだろうか。家事を手伝うといっても、それこそ向こうがプロで、私は、これまでまかせっぱなしだったから、まったくの素人なんですよ」

「そうですか、それでも、山崎さんは、この会社では、仕事のプロですよね。会社での役割はまだまだあると思うんですがいかがでしょうか?旅行は、十日間で終わってしまわれる。少しゆっくりなさったとしても、半月もすると、どうしようかと考えてしまうようになられるのではないでしょうか?山崎さんのご趣味を伺ったこともありませんが、もっと自分自身で生活を楽しむ設計をなさってから、退職なさるといいのではないでしょうか?」

三宅さんの言葉があまりにも唐突だったので、最初は驚くばかりだった山崎さんも、だんだん、三宅さんのような考え方もあると思えるようになりました。

「そうだね。三宅さん。私はもうくたびれた、後進のためにも、老兵は去るのみだと思っていたんですが、私の役割といったものを考えたほうがよさそうですね。ありがとう。君は、かっこいい横文字の言葉が多くて、私には近寄りがたいと思っていたんだが、率直に、私にはない考え方を示してくれたお陰で、女房のこと、ちゃんと考えてやれるような気がするよ。ありがとう。退職後のことも含めて、ちゃんと話してみるよ。我が女房とね」

数日後、ニコニコしている山崎さんに、また三宅さんが話しかけました。

「山崎さん、奥様と話をされましたか?」
「三宅さん、どうもありがとう。この間、君に言われてすぐに女房に旅行のことを話したんだ。そうしたら、賛成して喜んでくれたんだけど、『今度計画するときは、前もって相談して欲しい。私には私の都合というものがあるから』って言われたんだよ。これまでの私だったら、『うるさい。俺の言うとおりすればいいんだ』って女房を怒るところだけど、この前、三宅さんからいい話を聞いていたんで、おこらずに素直に女房の話が聞けたよ」

山崎さんは、この前の三宅さんとの会話から人の話をきちんと聴く「傾聴」の大切さを学び、すぐに実行したようです。

「そうですか。それはよかったですね。私もお話しした甲斐があったというものです」
「それでね、女房に言われたんだ。『お父さんは、会社に遣り残したことはないですか。今、こうして無事に定年を迎えられるのも会社があったからですよね。私もお父さんの会社に感謝しています。なんとか恩返しが出来ないものですかね?』女房からそう質問されて自分で考えてみたよ。『恩返しすべきですよ』などと詰問調で言われたとしたら、反発したんだろうけど、私に考えさせるような質問だったんで、素直に考える気になったよ」

山崎さんは、その後も三宅さんと話す時間をたくさん持ち、山崎さんは自分から再雇用に手を上げ、旅行は有休をとっていくという結論を引き出すことが出来ました。仕事については、役割を後進の育成にだけに絞られたそうです。また、家庭においての自分の居場所について、真剣に考え、町内会などを通じて地域社会に貢献したいと、奥様のネットワーク(人脈)を紹介してもらい、奥様とともに、地域美化清掃活動のボランティアを始められたり、地域の小学生に「技術」ってこんなに素晴らしいと、モノづくり教室の講師を始めると、人生計画を熱心に三宅さんに話したそうです。

山崎さんは、自分の人生にいつも自分のために使う時間がなかったことに気づき、今後は積極的に社会と触れ合いたいと、改めて三宅さんと話す時間を持ってよかったと、三宅さんに感謝の言葉を伝えました。

また、三宅さんも、山崎さんとの会話の中から「自分不在の人生設計」という言葉をヒントに、この後、キャリア・カウンセラーの資格取得を目標の一つに加えたとのことです。
コーチングは、「目標達成の支援」といわれますが、会話を通して、コーチ自身も新たな気づきを得られる魅力があるようです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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定年間近の先輩に対するお世話になった後輩のコーチングその1~後輩の言葉に不安になった定年間近の先輩社員~~定年後の生活を考直す~


この道一筋四十年。
板金工として、まじめにこつこつ一生懸命仕事をしてきた山崎さんは、後二ヶ月で定年退職です。
精一杯、会社にご奉公したという満足感と、いや、後を託す後輩に自分の技術の伝承が出来ていない時間は二ヶ月しかないと、あせる気持ちが交錯し、ついつい後継者に辛く当たってしまいます。山崎さんは、会社の再雇用制度には手を上げず、退職後は、ゆっくり奥さんと旅行でもして過ごそうと考えているので、残り二ヶ月がとても短いものに思えてならなくなってきました。
今日も、後輩の鈴木課長の失敗が許せず、大きな声で怒鳴ってしまったことを後悔していました。
自分たちが育てられたときには、「ばかやろう!何やってやがる」「一回聞いたら分かるはずだ。何度言ってもわからんのは、根性が曲がっているからだ!たたきなおしてやる」と、口より手のほうが早い先輩の中で、職場はいつもぴりぴりした雰囲気で包まれており、一瞬たりとも気が抜けない、しかし充実した場でした。「一度聞いたらちゃんと覚えろ、頭で覚えようとするからダメなんだ、体で覚えろ。自然と出来るようにならなきゃ、出来るとは言えないんだ」「俺達の時代は、先輩のやることを後ろから見て、盗むように覚えたもんだ」先輩達の叱咤激励を受けて、ただただひたすら上司や先輩の背中を見て追いかけていたように感じていた。そんな時代を振り返って、懐かしいと思うのも、定年が近いからだ、歳をとったからだと思い込むようにして、なるべく今時の若い者は・・と、考えないように努力していた。

「定年後はゆっくり女房と旅行でもしようと思っているんだ。旅行に行った後は、そうだなあ、すこしノンビリするよ」山崎さんは、定年後のことを聞かれるといつもそう答えていました。
定年後はゆっくり旅行をしようと思っているだけで、特には目標もない山崎さんを見て、三十代後半の三宅さんが、お昼休みに山崎さんに声を掛けてきました。
三宅さんは、コーチングというものを勉強しているらしく、何かというと横文字をよく使う社員で、理屈よりも体を動かせというタイプの山崎さんにはちょっと馬のあわない後輩で苦手でしたので、これまではあまり長く話したことはありませんでした。しかし、あと少しで定年だから、お礼の気持ちを伝えることも大切と思って、煙たがらずに三宅さんと話をしてみることにしました。
「山崎さん、もうすぐ仕事終わられるんですねぇ」
「ああ、三宅さんにも随分とお世話になりましたねぇ・・ありがとうございました」
「とんでもない山崎さん。僕たちは、山崎さんのお陰で、技術が身についたんです。厳しさもあったけど、山崎さんの懐の暖かさみたいなものが、私は好きで、甘えちゃっていたように思います。ホントにありがとうございました」
山崎さんは、三宅さんの言葉にふっと遠い昔を思い出していました。
(「そういえば、自分も厳しいけれども暖かい上司に、ずいぶんしごかれたなぁ・・。でも、厳しいだけじゃなかった。失敗したときも怒鳴られたけれども、上手くいったときには、自分のことのように喜んでもらえた。それが嬉しくって、おっちょこちょいの自分は、ずいぶん仕事に精を出すことが出来ていたような気がする」)山崎さんは、言葉には出さなかったけれども、暖かいものを心の奥に思い起こして、思わず目頭をおさえました。と同時に、(「それに比べて自分は今、どうだろう・・」)と、振り返る気持ちを感じていました。

三宅さんは、山崎さんの隣に腰を下ろして相変わらずゆったりと話しかけてきます。
「ところで山崎さん、山崎さんは退職後、どうなさるんですか?」
「いやぁ、これまで女房には迷惑をかけっぱなしてきたからねぇ・・。会社も忙しかったからね。会社がどんどん大きくなっていく、それに自分が貢献出来るのが楽しくて、そんなときには、家にも帰らず、ただひたすら社長やみんなと一緒に仕事をしてきたんだ。私も二十四時間戦ってきた企業戦士の端くれだよ。家のことは何もしないで女房に任せっぱなしだった。けれども、女房は、愚痴の一つもこぼさず家庭を守ってきてくれていた。こんなありがたいことはないが、今更口に出すのは恥ずかしいからね。旅行にでも連れて行こうかと、思っているんだ」

「いやぁ、それはいいですね・・。どちらへいらっしゃるご予定なんですか?」
「海外は初めてだから、心配もあるんだけれども、オーストラリアに添乗員が一緒についていってくれる旅行があるので、それに申込をしたんだ。十日間ほどの旅行でね。楽しみなんだよ」

「オーストラリアですか。いいですねぇ。十日間、奥さんに孝行されるんですねぇ」

山崎さんは、相変わらずゆったりと話しかけてくる。しかも、社内で言われているような横文字の言葉はほとんどなく、不愉快なものや緊張感はまったく感じられませんでした。更に三宅さんは話しを続けます。

「山崎さん、山崎さんの奥さんは、どんなご趣味をお持ちなんですか?我が家の女房は、パッチワークを習っていて、やれ今日は教室がある、やれ今日は展示会がある、やれ今日は先生のお宅にお招きいただいていると、しょっちゅう外出して、忙しそうにしているんです。山崎さんの奥さんも、毎日忙しくされているんじゃないですか?」

三宅さんの愚痴とも言えぬ言葉を聴いて、山崎さんはふと考えました。

(「我が女房殿は、どんな暮らしをしているのだろうか。わからない。そんなことなど考えたこともない。女房が毎日何を考えて、どういうことをしているのかを知らないなんて・・
これまでいったいどんな夫婦だったのだろうか?女房は何を考えているんだろう?熟年離婚?まさか、そんなはずは・・・・・?)

ふと不安がよぎった山崎さんでしたが、お昼休みの終わるサイレンにせかされて、「三宅さん、この続きはまたあとで・・・」後ろ髪を惹かれる思いで仕事にもどりました。

次回に続きます。

次回はさまざまな形でコーチングが出てきます。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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若手の先生と教頭先生の会話 のその後~コミュニケーションを考え直す~


さて今回は、前回の若手の先生と教頭先生の会話のその後をお伝えしようと思います。
教頭先生との会話の後、横井先生は深く考えました。

特に、教頭先生から受けた質問の、「横井先生は、ご自分の指導方法に生徒がついてこないと嘆いていたり、盛田先生の指導結果と、ご自分の指導結果を比べて嘆いておられる。その嘆きはそれぞれの生徒のしていることについてであって、自分のことではないですね。盛田先生とのことでも、盛田先生とご自分のことではないですね。生徒がしてくれないと嘆いているわけですね。
問題は、生徒側にある。生徒さえちゃんとしてくれさえすれば・・とお考えではないですか。
ですが、すべて他人任せな考えでは、何も解決しないと思うのです。解決をするために先生は、何が出来ますか?」
という思ってもみなかった質問は、深く心をえぐられました。

それでも答えが出ないので考えることをやめてみようと思いながらも、教頭先生から言われたことは、頭から簡単には離れませんでした。

「そうだなぁ・・自分は生徒を責めてばかりで、自分のことを棚に上げていたなぁ・・」と、自分を責める言葉ばかりが胸にこみ上げて、しまいには、「自分は教師には向いてないのでは・・?」という答えしか思い浮かばなくなってしまいました。

翌日以降は、顔を合わせると質問され追求されるような気がして教頭先生のことを避けるように、職員室にも身をおかないようにしていました。
たまに顔を合わせても、「どうも・・」とか、「お疲れ様です」と短くあいさつするだけで、なるべく教頭先生とは距離をおくようにしていました。

期末の成績評価も終え、明日から生徒は冬休みという日、職場では忘年会をかねた慰労会を行いましたが、横井先生は教頭先生と話したくないという理由のためだけに欠席しました。そんな横井先生の態度を見かねた教頭先生は、自分から横井先生に話しかけてきました。

「横井先生、お話したいのですが、今、よろしいですか?」教頭先生は相変わらず穏やかに接してくれていますが、横井先生は気がすすみません。
「今日は予定があるので、手短にお願いします」と答えるのが精一杯で、声も冷たく顔もこわばっているのが自分でもわかるほどでした。しかし、上司が接触してくるのを拒めば、更に居場所がなくなると思い、しぶしぶ教頭先生と向き合うことにしました。

「横井先生、何か私に話したいことがありませんか?このごろ、先生の様子がおかしいと思って心配になっていました。いかがですか?私に話せますか?」
教頭先生も心なしか、緊張しているようです。

「いえ、あの、この間は一緒に考えようと言ってくださったし、明日までと言ったのに、何も答えが見つからなくて。どんどん教頭先生に距離をおいてしまい、接触しづらくなっていました。すいません」横井先生の体格はがっしりしているほうですが、これ以上ないというほどに身を縮めて申し訳なさそうに話します。

そんな姿を見て教頭先生は、「横井先生、謝られることなど何もないですよ。私のほうこそちょっと空回りしたかと思っていました。横井先生にすぐにお詫びをしようと思ったのですが、ついつい後回しにしていました。申し訳ないことです」と、頭を下げました。
横井先生は、教頭先生から頭を下げられたことに驚くとともに、率直に自分の考えを話しても良い人なんだと、初めて思いました。

「教頭先生、実は、あの質問の答えを探しているうちに、どんどん、自分は教師に向かないという一点にだけ、心が集中していってしまっています。自分が一番、生徒に甘えて自律した考えを持てていなかったかと思うと、生徒に申し訳ないような気がして・・・」一気に話す横井先生の肩から力が抜けていくようでした。
「自分は生徒を責めてばかりで、自分のことを棚に上げていたなぁと思ったんです」

「それってどんなことですか」
「はい、生徒の結果だけを注目して、あんなにやっているのにどうして生徒はついてこないんだろうと、生徒の態度だけを気にしていたような気がします」

「生徒の結果に注目して、生徒のついてこないことを気にされていたのですね」
「そうなんです。私は一生懸命に生徒のことを思ってやっている。それなのにあいつらときたら と思うと生徒に信頼されていないような気がして、もうどうしていいか分からなくなってしまっていました」

「どうしていいかわからなくなってしまったんですね」
「はい、それも原因は、信頼されていない私にある。結局、私は教師には向かないんだって思うと、それ以上、前に進まないんです」。

「横井先生のクラス、生徒は何人でしたっけ」
「二十五人ですが、それが何か、私の悩みと関係あるんですか」

「横井先生、生徒一人ひとりの顔を思い浮かべてください」
「・・・・・・・?」

「一人ひとりに数学をどのように指導してきました?」
「基本をきっちりと教え込んで、それから個々の理解度にあわせてやろうとはしているんですが。どうしても時間との競争になってしまうので、宿題にして生徒自身で答えを導き出すように仕向けています。生徒一人ひとりがそれぞれ違いますから・・・」

「そうですよね。生徒一人ひとりそれぞれ理解度も違えば、考えるスピードも違うわけで、われわれ教師は、出来るだけ一人ひとりの生徒と向き合っていきたいものですね」
その後二人は、日が暮れ、底冷えするのに気づくまで、ゆっくり話し合いました。
横井先生は、自分の心の中にたまっていたものをすっかり出し切ったのか、スッキリした顔で教頭先生に胸のうちを伝えました。

「教頭先生、答えはまだ出ていませんが、前向きに考えて生きたいと思っています。来年、新しい太陽が上るのと同時に、もう一度一からやり直して見ます!ありがとうございました」
教頭先生も、横井先生に「習ったばかりのコーチングのスキルを振り回したために、混乱させて悪かったね。コーチングはコーチの自分自身のために行うのではなく、相談者のために行うんだということを再認識しました。相談者を思いやることの大切さを、横井先生に教えてもらえました。ありがとう」と伝えました。

三学期は、新年九日からスタートします。
前向きに考える気持ちになった横井先生にとって新しい一年が、希望に満ちたものであることは間違いありません。
コーチングは、スキルや知識を大切にしますが、相手の人格尊重、相手を思いやることも重要な要素であることを、改めて感じました。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
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若手の先生と教頭先生の会話~コミュニケーションを考え直す~


中学校で数学を教えるようになって七年目。熱血先生として評判の横井先生、熱血ぶりにかげりが出ています。

このごろの生徒の学力低下はひどいものであり、どうやって指導していけばいいのかと悩みの深い横井先生。近頃では、生徒がどんなことを考えているのか、自分のやり方に不満をもっていないか、ついていけないと考えているのではないかと思い出して生徒の言動のすべてが気に障るようになりました。文武両道、数学の授業もクラブ活動のバスケットボールでの指導も熱心に行うことから学校の中でも有名な熱血先生でしたが、このごろでは、部活動の指導にも熱が入っていないように見受けられるようになっていました。熱血先生の極端な変わりように教頭の田中先生は心を痛めていました。

期末テストも終わり、珍しく部活動の指導を早めに終えた横井先生が、ひとり職員室にいたのを見計らって、教頭先生は横井先生の隣に腰を下ろしました。

「お疲れ様です、横井先生。このごろ、元気がないようで心配なんですが、何かあったのですか?」と、何気ない世間話を始めるように、教頭先生は横井先生に話しかけました。

横井先生は、深いため息をつきながら「教頭先生、この前の期末テストの結果でも明らかなように、僕の教えている生徒たちの成績、惨憺たるモノなんです」と、横井先生は胸のうちを吐き出すように話し始めました。
「生徒たちはまじめに僕の授業は受けているんです。とても熱心だと思います。僕も、授業の進め方は工夫しています。でも、テストになると、皆、盛田先生の指導のクラスより成績が悪いんです。ある保護者からは、3者面談のときに、『指導力がたらないのでは?』と、露骨に指摘されてしまったし。どうしたらいいのかわからなくて・・・」

胸の中にずっとしまっていた荷物を降ろし始めた横井先生は、次から次へと話します。「生徒たちは、普段、とても楽しげに授業を聞いてくれているんですが、問題を解けというと、『わからん』だの、『難しい』だのといって真剣に問題と向き合おうとしないんです。
時間がないから、どうしても、授業最後のほうに出す問題については、正解を出すまでの過程を板書し、ノートに写させて各自で勉強しておくようにと伝えるんです。

次の授業のとき、振り返りにと問題を扱うと、覚えているらしくそのときには出来るんですが、理解していないからかテストになって、応用問題にすると、まるっきりわかっていないようなんです。私は数学は暗記じゃなくて、順序立てて物事を考えていき、答えを導いていく過程が大事だと考えています。ところが生徒達は、暗記ものと捉えているらしく、少し応用を利かせるともう出来なくなってしまうのです。
例題をどんどんやらせて、解き方を暗記させていくのも一つの手なんでしょうけど、それでは数学を勉強する意味がないと思うんです。例えば、『分数の割算は逆さにしてかければいい』というテクニックを覚えるのではなく、どうして逆さにしてかけるのだろうかということを順序だって理解してもらいたいんです。ところが、生徒達には・・・・」

どうやら横井先生は深い悩みを抱えているようです。

教頭先生は黙って横井先生の話を聴いていましたが、横井先生の言葉が切れてから、十分に時間を空けて、穏やかに質問をしました。

「横井先生、よく話してくれましたね。私はとても嬉しく思います。同時に、あなたの悩みがとても深いことを感じています。少し時間をかけて、その問題の解決に向けて、横井先生を支援していきたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「教頭先生、ありがとうございます。こんな話、だれにも相談出来ず悩んでいたんです。教師が授業のあり方で悩んでいることを人には知らせられなくて、どうしたらいいのか困っていたんです。思い切って教頭先生にお話してみました。ですから、校長や学年主任には黙っていてくださいね。もちろん、保護者の方にもです」

「横井先生のお気持ちはよくわかります。今日うかがったことは、横井先生と私の間だけの話としましょう」

「ところで横井先生、先生は、生徒たちにどうなって欲しいんでしょうか?」

「え?どうなって?そんなこと、考えたこともありませんでした。今考えますと少なくとも、自分の力で考えられるようになって欲しいと思いますんです。数学の魅力は、考えて答えを導き出すところにあります。今の生徒は、すぐに解決の方法を知りたがる。答えと解き方を聴いて、ほんとうにそのとおりになるだろうか?と、結果だけを確認している。それでは、考える力はつかないと思うのです。だけど、カリキュラムの時間はめいっぱいで組まれているし、盛田先生のクラスに遅れてはならないし・・・。そうなると、暗記させてでもいいから、カリキュラムどおり進めようと思ってしまいます。自分の〝そうあってほしいと〟いう気持ちとやっていることが矛盾しています」

「横井先生、一つ、今、私が感じていることを言ってもいいですか?」

前置きをしてから、教頭先生は言葉を続けました。

「横井先生は、ご自分の指導方法に生徒がついてこないと嘆いたり、盛田先生の指導結果と、ご自分の指導結果を比べて嘆いたりしておられる。その嘆きはそれぞれの生徒のしていることについてであって、自分のことではないですね。盛田先生とのことでも、盛田先生とご自分のことではないですね。生徒がしてくれないと嘆いているわけですね。問題は、生徒側にある。生徒さえちゃんとしてくれさえすれば・・とお考えではないですか。だけれども、すべて他人任せな考えでは、何も解決しないと思うのです。解決をするために先生は、何が出来ますか?」

「え?!」と、再び横井先生は黙り込んでしまったまま、しばらく時間が過ぎました。それでも教頭先生は、じっと次の言葉を待ってくれているようです。

「教頭先生、明日まで待ってもらってもいいですか?もう一度、ゆっくり考えてみます」といった横井先生の眼に、ほんの少しですが力が入ったように感じた教頭先生は、「今後もこの問題を一緒に考えさせてください。横井先生、今日はどうもありがとう」と言って、職員室を後にしました。

教頭先生は、生徒とのコミュニケーションをよくするために、コーチングを学んでいましたが、馴れ合いにならないコミュニケーションを目指しているばかりでなく、先生とのコミュニケーションを図るためにも、スキルが活かせることに気づいて、職場で活かしているそうです。

若手の教員は、自分の行動を自分で評論する力は強いが、当事者として問題を受け止める力が弱いと感じているようです。

若手教員のモチベーションを向上させたり、悩みを聴いてあげられるよき先輩教員として、コーチングのスキルを活かしているとのことです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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経営コンサルタントとして独立して悩んでいる綿谷さん~異業種交流会で出会ったコーチとのセッションをきっかけに相手に配慮する重要性に気づく~


会社勤めで経営コンサルタントの仕事をしていた綿谷さんは、自分の事務所をもち独立するのが十年来の夢でした。そのためにこれまで仕事をしていたといっても過言ではありません。綿谷さんへご指名のお話も多く来るようになり、これなら独立しても十分にやっていけると考えて今年三月三十一日に会社を退職し、念願の経営コンサルタントとして独立をしました。

オフィスは自宅の書斎と決め、必要な事務機器等も搬入され、逸る気持ちを抑えながらスタートを切りました。

まずは今までお付き合いのあった企業に独立したことの挨拶と、今後は自分に直接お話をいただけるようにとお願いすることから始めました。ところが、これまで付き合いのあった企業さんは、「わが社は綿谷さんの個人としてのコンサルタントとしての働きよりは、むしろ会社としての全体の働きを評価していたわけです。私どもとしては今後も従前の会社とは顧問契約を続けていく所存です。綿谷さん個人には、これまでお世話になったことでもあり、何かあったときにこちらから声をおかけすることでいかがでしょうか」と体よくあしらわれてしまいました。「何かあったときにこちらから・・・」というのは、「何もないと思えば声をかけない」ということです。

これまで付き合いのあったところは、自分のコンサルタントとしての力を評価してくれていると思っていた綿谷さんは、それが間違いで相手は自分の背中の看板、○○社のコンサルタントということを評価していただけだということに、初めて気づきました。

このままではいけないと考えた綿谷さんは、いろいろなつてを頼りにして、これまで付き合いの全くなかった会社さんへの営業を開始しました。飛び込み営業も行ったわけです。しかしながら独立して四ヶ月。営業をかけても相手にしてくれる企業はほとんどなく、話すらまともに聴いてもらえなかったり、話は聴いてもらえるものの、相手にとって必要な情報を引き出されると、後は、邪魔だといわんばかりに追い返されたりする毎日でした。

独立前の会社では、専門の営業がいて、コンサルテーションが必要なクライアントは、彼らが専門に獲得してくれていたので、名刺交換のときからすでに、「先生」と呼ばれ、厚くもてなされていただけに、このギャップを冷静に受け止めることが出来ませんでした。

これではまずい、何とかしなければと思い、ある夜、異業種交流会に出席してみました。なかなか名刺を出す勇気がなくどうしたらよいものかと考えあぐねていたところ、笑顔の綺麗な女性が、声を掛けてくれました。

「はじめまして。私、橋本幸子と申します。職業は、ビジネスコーチをしています。ご参加ははじめてでいらっしゃるんですか?」

「は、私は、経営コンサルタントをはじめたばかりの綿谷利男と申します。初めての参加です」と挨拶をし、もう何度も踏みにじられている名刺を躊躇しながら出しました。橋本さんはとても活発な人で、大勢の人から声を掛けられる顔の広い人で、多くの人と朗らかに話しているのを見て、うらやましく思いながらも、この会で自分がどうしたらよいのかがわからず、ずっと橋本さんを頼りに、行動することにしました。積極的な橋本さんの真似をしてみることにしたわけです。合間を見て橋本さんは、「ごめんなさいね。お声を掛けてくださる方が多くて。何だか落ち着きませんね。ところで、今日初めてお目にかかった方に失礼だと思うんですが、何か、悩んでいらっしゃることがあるようですが、いかがですか?」
と話しかけてくれました。

綿谷さんは、(初対面の人にどうしてそんなことがわかるのか。コーチをしているといっていたから職業がら誰にでもそういって話しかけているのではないのか。占い師が道行く人に声をかけるように、私に話しかけたのではないのかな。ちょっと追及してみてやろう)少し意地悪な気持ちになり、「どうして、悩んでいると感じられたんですか?」と質問してみました。橋本さんは、あっさり、「ため息の回数と深さです。この会場に入ってからずっとため息をおつきでしたよ。ご自身の行動に気づいていらっしゃいましたか?」と、にっこり笑っておっしゃいました。

綿谷さんは、この会場に入ってから、ずっと一人ぼっちで居るようなさびしさや疎外感を感じていたのですが、橋本さんはずっと見ていてくれたようです。

「この人になら、胸のうちを明かしても笑われることはない」。直感で判断した綿谷さんは、率直に胸のうちを明かしました。

「今年の春に独立したんですが、思ったようにいかなくて・・・」

ずっと静かにうなづいて聴いていてくれた橋本さんは、綿谷さんの話に、「そう、大変な思いをしたんですね」とか、「悔しかったんでしょうねぇ」と、綿谷さんが避けて表現しない心の中を、実に見事に言葉にして表現しながら、どんどん、話を聴いてくれました。

綿谷さんは、橋本さんの対応につられて自分の気持ちを話し続けていました。

十分ほどの長話になってしまったことに気づいた綿谷さんは、「橋本さん、ごめんなさい、あなただってここには何かを探しにいらっしゃってたんでしょ?僕が邪魔をしていますよね?」と、率直に橋本さんにお詫びしました。

すると橋本さんは静かに言いました。「綿谷さん、今のその心遣いを、企業周りの飛び込み営業でもしていましたか?兎に角、自分のことを売り込もうとして、自分のことばかり話して相手の都合など気にしていなかったというようなことはないですか?」。綿谷さんは、心臓をナイフでえぐられたような衝撃を感じたように、体をまっすぐにし、頬を紅潮させながら橋本さんに答えました。

「僕は一生懸命、自分のために契約してくれることばかりを探していました。そうですよね。誰だって邪魔されたくない話の途中や、仕事の途中で、人の話には付き合いませんよね。なぜそんなことに気づかなかったんだろう」

「そうなんです。話というのは相手のためにすることであって、自分のためにするもんじゃないんです。心底、相手のためを思って真剣に話していると相手の琴線に触れることになるわけです」

「どうもありがとうござます。橋本さんと出会えただけでもこの会に参加した意義がありました」

綿谷さんはこの夜をきっかけに、今は橋本さんのコーチングを受けながら、個人事業主を楽しんでいるそうです。

そして、この半年の間に、顧問先は三社になり、目標まであと二社を目指して日々、営業に励んでいるそうです。

竹内 和美竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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