「傾聴」の不調はなぜおこるか

コーチングはコミュニケーションサポートであると言われています。

コーチングが上手くいかないことの根本原因がここにあります。

一般的に、コーチングは上司から部下に向けて行われます。

従来の指示命令型の一方向のコミュニケーションに慣らされた「上司」「部下」の間で、急に双方向のコミュニケーションであるコーチングを始めても有効に機能しないのは、自明のことです。

〔部下の陥りやすい態度〕

自分で考えるより、上司から指示・命令を受けてそれを実行するほうが楽でいいと考えます。

意見を出しても、どうせ最後には上司が何をするか決めるのだから、意見など出しても仕方がないと考えます。

上司が最近、指示を出さなくなった。

頼りがいのない上司だと考えます。

話を聴いてくれるようになったが、それに対する指示がなく話しても張り合いがないと考えます。

いままで口うるさかった上司が、急にやさしくなったが、おかげで緊張感がなくなったと考えます。

〔上司の陥りやすい態度〕

自分が責任者であり、責任を負わされるのであるから、人に任せているわけにはいけない。

何をすればいいのかは、経験豊富な自分が考え指示を出し、部下がそのとおり動くほうが効率的であると考えます。

せっかく、上司の自分がサポートしているのに、サポートしがいのない連中だと考えます。

話しを聴くと言っているのに、話が出てこない、最初から目的意識が薄い連中なんだと考えます。

部下は「話を聴く」より適切な指示のほうを求めていると考えます。

指示を出さないと何にもしない上司だと思われてしまうと考えます。

指示を出さない上司と思われ、権威が認められなくなり、緊張感がなくなったと考えます。

「傾聴」不調への原因

1.コーチが「傾聴」を行う環境になっていない。

(1)上意下達の世界。

(2)全員一致を原則として、議論を避ける職場。

2.コーチがクライアントのために「傾聴」を行う考えになっていない。

(1)指示命令を出すべきであるが、情報がないので部下から聞き出してやろうと思っています。

(2)ポジションパワーを発揮して、部下に指示をだすことが任務だと思っています。

(3)朝令暮改、言っていることがぶれています。

(4)何も考えていない、向上心のない部下に話を聞いても時間の無駄であると思っています。

3.クライアントが「傾聴」を受ける状況になっていない。

(1)上司の指示命令を黙ってやっていればいいと思っています。

(2)上司の言っていることは絶対であると思っています。

(3)余計なことを話して、できない部下だと思われたくないと思っています。

(4)話をしても所詮はわかってもらえないと思っています。

「傾聴」不調への対応

1.コーチが「傾聴」を行う環境づくり。

(1)上からの情報をきちんと、自分の言葉。考えでもって説明をします。

(2)徹底的に討論をし、隠れた意見をも吸い上げる会議にします。

2.コーチがクライアントのために「傾聴」を行う気持ちになります。

(1)情報を共有化し、適切な対応をとるために「傾聴」を行います。

(2)コーチとして大切なことは人間的魅力であり、パーソナルパワーを磨くことをこころがけています。

(3)一本筋の通った考えで対応、話がぶれないようにしています。

(4)話の上手下手はあるが、部下は必ず何かを考え向上することを考えて行動していると思っています。

3.クライアントが「傾聴」を受ける状況にします。

(1)直接第一線にいる自分が一番の情報を持っているのであり、この情報を共有化するために話をするのだと思っています。

(2)状況は常に変化しているのであり、適切な情報を提供してもっともいい対応を上司と一緒に考えようと思っています。

(3)厳しい情報ほど速やかに共有し、ピンチをチャンスに変えることを心がけています。

(4)話をすれば状況を理解してもらえ、アドバイスなどももらえて適切な対応がとれるようになると考えています。

「傾聴」を効果的なものにするために

「傾聴」を効果あるものにするためには、ポジションパワーによる「傾聴」(聴いてやるとの態度)ではなく、人間性豊かなパーソナルパワー(何でも聴いてあげる)による「傾聴」を心がけるようにすることが必要です。

「傾聴」を心がけているのに上司の行動が部下に受け入れられないとするならば、その上司は日ごろからポジションパワーでリーダーシップを発揮しているからです。

ポジションパワーはその地位についていれば、必ず身についているパワーです。

自分は決してポジションパワーを使って、部下に接していないと思っていても、人間的魅力パーソナルパワーを備えていない上司に対する部下の対応は、上司のポジションパワーを意識したものにすぎないのです。

自分の地位をよりどころにして発揮しているリーダーシップ=ポジションパワーによって、「指示」をだしている上司が行う「傾聴」行動は、同様にポジションパワーでもって行われているのです。

上司がポジションパワーで「傾聴」していると気づいた部下は、自分のためになることとして「話し」などをしません。

「傾聴」とはコーチがクライアントのために行うことであり、コーチの自分のために行うことではありません。

そしてクライアントもクライアント自身のためにコーチが「傾聴」していると気づいていて始めて「傾聴」が効果的なものとなるのです。

「傾聴」している意味をコーチとクライアントの双方が認識できたとき、はじめて人が人とホンネで話し合えるのです。

そして、お互いが相手のことをひとりの人間として認めるのです。

このことはビジネスの場におけるコーチングはもちろんのこと、日常生活の場においても同様のことです。

「親」だから・・・、「先生」だから・・・では、通用しないのです。