質問のスキルアップ 2

今号では、行動を促す「質問」を考えましょう。

気づけてはいるのですが、行動できない。
そんな時は、行動するイメージができていない、あるいは、行動のための準備が整っていない、あるいは、目標そのものの設定に無理がある等、何らかの障害を抱えていることに気づかせる働きをもつ質問が必要になります。
質問されることによって、自分の心の奥底にある答えを導き出すことで、適切な次の1歩につなげることができるようさまざまな角度からの質問を作って、答えてもらうよう、働きかけてください。

事例)
新人A君:「係長、相談があるんですが・・・今、お時間よろしいですか?」
係   長:「もちろんいいよ。声のかけ方が、うまくなったね」

新人A君:「はぁ・・・そうですか?この間、叱られたので、覚えていました」
係   長:「わたしが叱ったかな? わたしじゃないんじゃないか?」

新人A君:「いえ、あの、係長ではなくて・・・主任のGさんに・・」
係   長:「ああ、G主任か。あの人、厳しいからねぇ」

新人A君:「いえ、あの、G主任が悪いわけではなく、僕が教わった通りにできないので・・」
係   長:「ところで、何の相談かな?」

新人A君:「あ、やっぱりいいです。僕が教わった通りにできないだけですから・・」
係   長:「?? いいのかな?」

新人A君:「はぁ、やっぱり・・僕って、何回怒られても覚えられなくて。物覚え悪いだけですね」

コーチングのスキルを覚えたばかりのころに陥りがちな事例です。
部下に声をかけられたら、とりあえず褒めなければならないという配慮から、部下の成長点を認めようと目についたことを褒めてみる。ところが、褒められた方は、褒められても納得しているわけではないし、自分が思ってもいなかったことを言われ、戸惑うばかりか、抱えている問題の答えは、「やっぱり自分に悪いところがあるんだ!」と思うことで自己納得をしてしまい、本題に入る前に自己解決してしまったという事例です。

相手の様子をうかがいながら、本題に入る前に話しやすい環境を作る目的のため、手段としてアイスブレイクするのは構いませんが、この事例のように、本題に入れず完結してしまったら、コーチングの本来の機能を果たせず、コミュニケーションは終了してしまいます。

相手の様子が深刻であれば、すぐに本題に入れるよう、会話の組み立てを工夫してみましょう。

事例)
新人A君:「係長、相談があるんですが・・・今、お時間よろしいですか?」
係   長:「もちろんいいよ。どうしましたか?」

新人A君:「はい、先日主任のGさんから、何度も同じことを言わせるな!と、叱られてしまったんです。自分では、十分注意したように思うんですが・・・」
係   長:「自分では注意したのに、G主任から叱られたんだね?」

新人A君:「はい・・・かなり落ち込んで・・やる気が出ないので、余計にG主任に怒られるし、わたしはどうしたらいいんでしょうか?」
係   長:「君が今、いちばん嫌なことはなんだろう?」

新人A君:「いちばん嫌なことですか? そうですね、G主任に怒られることかなぁ」
係   長:「そのほかには?」

新人A君:「そのほかですか?」
係   長:「そう、怒られることだけが嫌なんだろうか?」

新人A君:「はぁ・・実は、わたしは今の自分の姿が嫌いです」
係   長:「今の姿?落ち込んでいる姿が嫌い?」

新人A君:「はい、こんなことで落ち込んでどうする。自分の仕事をしっかりやろう!と、自分を励ましても、やる気が出なくて・・。G主任を見かけるだけで、胃の奥が苦くなるような気がするし」
係   長:「自分が、G主任から逃げてるように思うのかな?」

新人A君:「はぁ、そんな感じです」
係   長:「どうなりたい?」

新人A君:「すっきりしたい・・・というか、仕事でミスをなくすようにするためにどうしたらいいか、それが問題ですよね?」
係   長:「君は、自分の課題が何であるかも理解している。だけど、それでも体が動かないのに苛立っている。自分が自分らしく働く姿はイメージできているのか
な?」

新人A君:「実は、あまりイメージできなくなっています」
係   長:「急がずに、イメージしてみたらどうかな? ちょっと忙しく考えすぎているように思うよ。これから、私も協力するから、半年後出来るようになりたい仕事を考えてみよう。今日は悪いが、この後会議がある。続きは明日でもいいかな?」

もやもやしている新人A君の悩みが深いだけに、1度の相談では終われません。そんな時は、時間をおくことも必要です。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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