年配者との交渉が上手くいかない~仕事がうまくいかないのは、コミュニケーションのとり方に原因があった~

インテリアデザイナー歴六年。これからますます仕事に、プライベートに人生を楽しみたいとおっしゃる、前向きな松永さん。住宅メーカーと組んで仕事をすることが多いため、内装の打ち合わせに同行することが多く、新しい家が完成するたびに、大きな喜びを感じるそうです。また、自分が手がけた家の写真撮影を許可していただける場合には、アルバムにして、次のお客様の参考にしようと、常に前向きに自分の仕事に工夫を凝らしながら楽しんでいました。
ところが、今年の初め、正月気分が抜けないくらい早々にいただいたお宅の打ち合わせ以後、すっかり気持ちがふさがり、このごろは、仕事も休みがちで今後どうしたらいいのかというテーマでのセッションでした。

「おはようございます。とても疲れていらっしゃるようですが、お体の具合はいかがですか?」
「すみません。病気とかではないんですが、なんとなく全身に力が入らなくて・・」

「これまでも、そんなことがあったんですか?」
「いえ、病気一つしたことがなくて、おかげさまで医者に知り合いが出来ません。仕事でのクライアント以外は・・」

「なるほど、そのくらいお元気な方が、なんとなく全身に力が入らなくてとおっしゃる。何かお心当たりがあるようですね?」
「はい、今年の正月にいただいた仕事が、お医者さんのご自宅の新築だったんですね。若いご夫婦といっしょに暮らすから二世帯住宅をというお話でした」

「二世帯住宅。仕事も倍という感覚でお引き受けになるんですか?」
「そうですね。基本的には、親御さんの居住部分は、和のテイストでまとめることが多いですし、お若い方の住居部分は洋のテイストでまとめることが多いので二つの仕事を同時に進行させるという感覚で心構えをします」

「それは大変ですね。1度に二つの物件を扱うわけでしょう?松永さんお一人でされるんですか。それとも人は使ってらっしゃるんですか?」
「はい、スタッフは三名います。いずれも主婦の方で、パート契約をしています。仕事があるとき、時間があるだけ働いていただくというスタイルです」

「そのお歳で、年上の方を使われるのはしんどいでしょう?」
「そうですね。三十三歳にしてこの発展は、ほんとうに幸運だったと思います。ただ、この年齢が災いしたのかなぁ・・」

「どんな問題を抱えられたのでしょうか?」
「そのお宅のクライアントが、私の提案を、ことごとく否定するんですね。でも、同じことをスタッフが表現を少し変えてお客さんに打診させると、それはOK!って二つ返事で話が進むんです」

「具体的に伺ってもいいですか?」
「はい、たとえば、『親御さんのお宅の玄関の壁を利用して、お写真を飾ったらいかがでしょうか?』と提案させていただいたんですね。とてもお孫ちゃんたちと仲が良いお宅なので、やり取りを聞いていたら、ほのぼのとしていい雰囲気だったんです。そこで、お玄関横の壁をフォトギャラリーのようにして、写真を5・6点、飾ったらいかがでしょうか?という提案をしたんです。ところが、最初は、『医師仲間が尋ねてきたとき、落ち着きのない家だと思われるのはかなわん。そんなことは、若いもののやることだと』頑として受け付けなかったんです。
ところが、スタッフが『お孫さん思いのおじいちゃまのお気持ちを、写真を飾ることで表現させていただけると嬉しいですねぇ』・・と言ったとたん『それはいい!ぜひ、そうしてください。写真を選ばなくちゃいけないなぁ』と、がらりと変わって『すぐに写真と写真を飾る額を選んでください』と、発注がきたんです」

「結果はオーライですねぇ」
「もちろん、結果だけを見ればいいんですが、どうして同じ提案なのに、私は駄目で、スタッフはいいのか、腑に落ちなくて・・・」

「スタッフの方は、この件はなんておっしゃってるんですか?」
「コーチと同じです。結果が良かったんだから、それでいいんじゃないかって?」

「なるほど。でも、松永さんは納得出来ていないんですよね」
「はい、結果は確かに良かったんですが、なぜ、私ではだめで、スタッフならいいのか。それが知りたいです」

「それを知ることは、今後にどんな影響を与えますか?」
「年配者との交渉がうまくいくと思います」

「なるほどね、交渉がうまくいくわけですね? ところで、スタッフさんは、お客様と交渉しているんだろうか?」
「ん??どういうことですか?」

「言葉尻を捕まえて申し訳ないんですけれどもね、交渉しているのかな?お客様のご相談に乗っているというふうに考えてみると、松永さんとスタッフさんの違いは何でしょうか?」
「ん・・・お客様とは、商談や交渉はしますが、単なるご相談に乗っている関係であると思ったことがないので・・・」

「なるほどね。スタッフさんは、お客様の孫を思う気持ちをうまく褒めて、提案をしていますよね?」
「そうですね・・・」

「交渉は大切だと思うんですが、施主さんやそのご家族の気持ちを引き出すような進め方をすると、何か障害になることがありますか?」
「うん・・私が若いということは、問題ではないのでしょうか?」

「松永さんご自身はどう考えますか?」
「スタッフがみんな年配者だから、上手くいっているとばっかり思っていました」

「そうですね、確かに、日本という国では、歳をとっているほうが、信頼を得やすい気がします。でも、それだからといって、すべてが上手くいってないわけではないように思いますがいかがでしょうか?」
「私には、相手に配慮するという視点が欠けていたんでしょうか?」

「率直に、今までのお話から、私はそう感じました」
「そうか・・クライアントとは交渉するもんだと思っていました。お金をいただくんだから、責任ある仕事をしなくちゃいけないと思って、力が入ってたかも・・」

「インテリアデザイナーの仕事がしたいのか、お客様の喜ぶ顔を見る手段として、インテリアデザイナーでありたいのか、どちらなんでしょう」
「うん・・・難しいけど、それをゆっくり探してみます。何か、目先のことだけ考えていたような気がします。歳は急いで取れないし。ちょっと気持ちが楽になりました。ありがとうございます」

「こちらこそ、ありがとうございました。次回のセッションは・・・」

答えがすぐに見つかるセッションばかりではありません。
時間をかけて支援出来る、コーチの仕事の魅力の一つですね。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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