「入社三年目 若い人から同僚へのコーチング」~職場での不平不満を解消し、積極性を取り戻す~

「会社休みたいなぁ・・」
同僚の田中君の言葉がきっかけとなり、私はさっそくコーチングをしてみることにしました。
まだ、コーチングの基礎的な傾聴や承認、質問のスキルを習ったばかりなので、自信はありませんでした。
しかし、田中君の元気を取り戻したい一心でチャレンジしてみたのです。
田中君とは、同期入社で同じ営業所に配属になったこともあり、時間さえあえば一緒にランチをしたり、飲み会をしたりする仲でした。入社二年半。とにかくふたりとも突っ走ってきたという感じで、営業成績もいつも競い合うようにしてがんばってきました。
その田中君が、夏以降、だんだん元気がなくなってきたのです。遅刻や欠勤があるわけではありませんが、朝の挨拶や営業所から外回りに行くときや帰ってきたときなど、なんとなく挨拶に生気が無く、気にかけていた矢先「会社休みたいなぁ・・」という言葉で本人の心の中をのぞく事になりました。

「どうした?田中、会社休みたいって、何かあったのか?」
「いやぁ、おまえんとこの課長はおまえにいろいろさせてくれてるだろ? 資料作りだって、ある程度まで任せてもらっているようだし、いざってときには、課長が同行して交渉してくれているだろう?それに比べて、うちの課は、課長が絶対で、新しい資料作ったほうがいいなぁと思って指示されなくても作るだろ? そうすると、そんないらんことはしなくてもいい、お前は俺の言ったとおりの方法で売り上げさえあげてりゃいいんだって、えらい剣幕で叱られてさぁ・・。でも、資料なくて顔だけの営業って、先行き細くなる一方だと思うんだよなぁ・・」

「そうかぁ、田中は課長の言ったとおりの方法で売り上げさえあげていりゃ良いって言われることが嫌なんだね?」
「ああ、そうだね。課長たちの時代と今は違うさ。課長だって、今でこそ顔を出しさえすれば取引先がまぁしょうがないって感じで売り上げつけてくれるけど、最初からそうだったはずじゃないんだ。それなのに、自分の時のことは忘れちゃってて、俺のときは言うとおりにしろだって?それじゃ、俺は力がつかないって。何でも経験することが大事だって、社内報の社長の言葉にだって書いてあっただろう?社長が経験を大切にって言ってるのに、何で課長がそれを止めるのか?ホント!理解に苦しいよ。それで焦っちゃってさ・・・」

「そうだね。僕も読んだよ。社長の年頭所感。俺たち若手には刺激のある言葉だったよなぁ・・。ところで田中君は、どんなことに焦っているんだ?」
「え? そりゃ、このままじゃ、お前をはじめ同期のやつらと比べて経験というものが絶対に不足することや、みんなよりスキルが不足することだろうな?おれは、お前と違って、この会社にずっといるつもりは無いんだ。だから、三年間で結果を出さないと、転職の準備に入れないわけだよ。この三年間はホント重要だったのに、あんな課長の下に付いちゃって・・・。お前の課に配属されなかった俺は、つくづく不運だと思う」

「そうかぁ、田中は配属そのものさえ受け入れられない状態になっているんだね。残念だね。ところで、三年ですぐに転職活動に入るのか?」
「いや、五年間はここにいる。だけど、このままあの課長の下ではなんの経験も実績も残せず、転職には不利になるから、春の異動で動かしてもらうよう人事部にかけあってみようと思うんだ」

「すごいなぁ田中。人事部に思いを伝えるんだ。どんなふうに言おうと思うんだ?」
「え、だから、このままあの課長の下にいても何もさせてもらえないし、経験が不足するし、実績を上げられずに組織に貢献出来ないことがいやだからって、ストレートに言うさ」

「なるほど。課長の下にいても何もさせてもらえない、経験不足や組織貢献出来ないからいやだって言うんだね。人事部はなんて思うかなぁ?」
「そりゃぁもっともだって言うと思うよ。組織貢献出来ないっていうのは、痛いだろうさ」

「なるほど、そうだね。組織貢献出来ないっていうのは、こたえるだろうね。ところで、新しく異動した先では、どんなふうに組織貢献出来ると思う?」
「そりゃぁ、ばりばり仕事して、売り上げ目標、いつも一〇%超えで達成だよ」

「なるほどね、それはどんな方法で達成するの?」
「そりゃ、資料なんかもちゃんと作ったり、電話アポで見込みのあるところにだけ営業に行って効率よく動いたりだよ。つまり、今の課長とはまったく正反対のやり方をするってことさ。課長の鼻を明かしてやりたいよ」

「なるほどね。資料も作って、電話アポちゃんととって、見込みあるところだけと効率よく営業するんだね?」
「ああ、そうだよ。なにもさせなかった課長に思い知らせてやりたいなぁ」

「田中君、一つ聴いても良いかな?会社休みたいことと、異動をお願いすることと、課長の鼻を明かすことと、どんなふうに結びつくんだろう?少し、わけて整理してみようよ」
「ん??そうだな。そう言われてみると、それぞれが違うことのような気もするな。一つひとつ考えてみるよ」

ようやくここで田中君の話すスピードを止めることが出来ました。
会社を休みたいと思うのは、ただ単に自分の思い通りにならずつまらないからで、異動をお願いしたい、課長の鼻を明かしたいというのは、単なる自分の思いを通すための手段であって、何らかの根拠のある事ではないことが、この後の会話で明らかになっていきました。
入社して三年。そろそろ会社の中での自分の立場や役割が理解出来る頃になると、急に不安を覚えたり、会社が何も与えてくれていなかったのではないかと疑心暗鬼になるようです。
しかし、どんなに長く社員として働いたとしても、常に会社は個人に何かを与えてくれるわけではありません。会社にどう自分をアピールし、自分から積極的に組織とかかわろうと努力しなければ、何も変わることはないのです。
自己主張をどうしたらよいのか?そのためにどんな行動を起こし、どんな実績をあげるのか?
すべて自分で組み立てていくことが大切であると気づかなければ、早晩、会社に居場所が無くなっていくことでしょう。
入社して三年。自分の居場所を自分で見つけるためにも、コーチングは役に立つことでしょう。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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