新任センター長と古参社員との戦い(その2)~新任管理者、職場改善を目指す~

流通センターに就任した新任センター長の浜田さんは今年五十二歳になる社内経験豊富な部長です。

前回は浜田さんの現状を訴えたいという思いを、和田コーチが傾聴することに終始したコーチングでした。
「浜田さん、1週間たちましたが、古参社員とどんな関係作りを望むのか?考えてすごされましたか?」という和田コーチの少し厳しい表情から二回目のコーチングが開始されました。

「いやぁ、よく分かりません。感じることはやはり同じですね。毎日毎日、社員の勤務振りに対して・・というか、態度が気になって気になってしようがないですねぇ。相変わらず、ルーズに休憩時間を延ばしているし、夕方の掃除も、どうもやっているのは、比較的年数の短い人がいやいややっているようにしか思えません。私のモチベーションまで引き摺り下ろされそうで、もう、相手にしないで事務所からなるべく出ないようにと心がける以外、手はないのかなぁ・・と考えています」
「浜田さんは、このままでは、自分のモチベーションも下がる、だからどうしたらいいかということも考えられたわけですね?」

「まぁ、そうですね。自分のことはまず守らなければと思います。本社の人の目は届かないわけですから、実態を知らない本社の人に、自分まで、あいつらと一緒だと思われたくはないですからね」
「あいつら」という言葉をはっきり口に出した時に、浜田さんの表情が少し緩んだのを和田コーチは見逃しませんでした。和田コーチは、厳しい表情を崩さないまま浜田さんに質問を重ねました。

「浜田さん、あなたにとって、部下ってどんな存在なんですか?」
「はぁ?・・・・・・・・・・・(沈黙)」

お互い、その状況に耐えられなくなるほど沈黙している時間が経過しました。

「浜田さん、あなたがお答えになるのを待っていたのですが、お答えがでませんか」
和田コーチは話し始めました。
「浜田さん、部下の方を『あいつら』と言われたのですがそのことに気づかれましたか?わたしには、『あいつら』という表現の中には、『仲間』とか、『チームメイト』というような暖かなものが感じられませんでしたが、浜田さんは、どんなお気持ちで『あいつら』とおっしゃったのでしょうか?」

心の中を見透かされ、懐を一気にえぐられたような気がした浜田さんは、また、表情を固くして下を向いてしまいました。

「あの・・和田さん、今、そのことについては話したくありません」そう伝えるのが精一杯でした。
浜田さんの答えに、和田コーチは始めてにっこり微笑みました。

「いいですよ。答えたくないという答えがあることに気づいていただけたことが私は嬉しいです。ものの見方って、いくつかあると思います。まっすぐに表からだけ見るのではなくて、裏側からも見ていいんですよね。必ずしも質問には答えなければならないということではありません。『No』という答えも、また、答えですよね」と、穏やかな表情で、冷静に話す和田コーチに、浜田さんの心が包まれているような感じを抱いたようです。重ねて、和田コーチの質問が続きます。
「浜田さん、無理やりに考えてもらう必要はないのですが、古参社員の方のこれは素晴らしいと認められる仕事ぶりは何かありますか?」

「そうですねぇ・・経験年数があるから、出荷間違いは、まず、ありませんね。その点はしっかりしています。安心して任せられます。むしろ、営業が間違って出荷価格を入力していることが、一目で指摘出来るぐらいのスキルの高さはもっているんです。この間も、営業サイドで単価の入力間違いがあって、これまでより高い値段で出荷しそうになって、危うくクレームになるところだったんですが、それを見つけて未然に防いでくれたんです。そういうときは、饅頭を差し入れたりして、ご機嫌を取ったりするんです。まぁ、それなりに饅頭の効果はあるようですが・・」
「なるほど。浜田さんは、気も遣い、お金も遣ってご機嫌をとっているわけですね。饅頭を買っているときの浜田さんの気持ちは、どんなものですか?」

「いやぁ、正直、お金の無駄遣いだなぁと思うこともあるし、こんなご機嫌とらなくちゃならない部署は、早く異動させてほしいとさえ思うことがあります。本来は、お客様の笑顔を創造出来る、いい職場だと思っていたのに・・・」

古参社員のことを話すにつれて、どんどん、落ち込んだ表情になる浜田さんに、和田コーチは言いました。

「浜田さん、もし浜田さんが、チームメイト(仲間)として受け入れられず、敵対視されながら職場に迎えられたとしたら、頑張って仕事をしよう、この仕事はお客様のために働き甲斐があると感じることが出来るでしょうか?一生懸命に仕事をしようと思えるでしょうか?」

ようやく和田コーチは、質問の核心に触れました。

「う~ん・・・(沈黙)」
しばらく黙って考えていた浜田さんは、「そうですね。難しい問題ですね」そう言って、また黙りこんでしまいました。
「・・・・・・(沈黙)」

黙り込んだ浜田さんをみて、今度はさほどの時間を空けずに、和田コーチは浜田さんに言いました。

「そうですね。難しい問題ですよね。それでは、次回までに、この質問の答えを探してきていただいてもいいですか?」
救われたように顔を上げた浜田さんは、和田コーチにアイコンタクトをして大きくうなずきました。
「和田さん、今日のこのコーチングの時間は私が次回までに答えを探すのに効果的であったのでしょうか?私は、あなたの求めるとおりの答えを出せていない気がするのですが・・・それでいいんでしょうか」

和田コーチは、同じように深くうなずき、ゆっくり息を吐いて穏やかな口調で言いました。

「コーチングは、コーチである私が求める答えを探すものではありません。私は答えを求めていません。コーチの私のためにコーチングをしているわけではありません。
浜田さんが自分自身でどうしたいのかを考える事が大事なんです。ゆっくり時間をかけて、自分を大切にして考えてみてください。」
このようなやり取りにて二回目のコーチンの時間が終わりました。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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