夜の通勤電車内でのコーチング~車内での会話の紹介~

「だぁめだよ、あの人。あの人は、何でも自分の思い通りにしないと気がすまないからさぁ・・
あの会議、何だった?最初から結論ありきでさ、結局、皆が合意させられただけでしょ?
あの人は、結局、部下を潰すタイプだよなぁ・・・」
そんなに遅い時間ではない電車の中で、よほど腹に据えかねたのでしょう。さほど、悪酔いしているふうでもないビジネスパーソンは、一気に心の中を吐き出すようにしゃべり続けました。
一緒に電車に乗っていた同僚と思しき社員との会話を紹介しましょう。
この同僚と思しき相方が、コーチングを勉強していたかどうかは不明です。もし、学習していらっしゃらないとしたら、根っからコーチングの素養を見に備えているネイティブコーチャーなのでしょう。
でも、このやり取りは、まさに、コーチングを学んだ方だと思いました。皆さんなら、どんなコーチングを組み立てますか?

「そうだよね。あの部長は君の言うとおり、まさしく部下を潰すタイプだよ」
「そうだろ?そう思うだろ?ほんと、やってらんねんよなぁ・・俺たちがこれまでどんなに根回しして、みんなの同意を取り付けていたと思う?」

「そうだね、確かにね。同意を得るために、君はとても頑張ったよね。通常業務以外にもよく頑張ったね。それを認めてもらえないのはきついよなぁ」
「だろ?俺、あの人の下にいる限り、もう出世出来ないと思う。だって、顔に出ちゃうもんなぁ・・あの人のやり方についていけません!って態度にも出ちゃう」

「そうかぁ・・つらいなぁ・・。ところでさ、それなら、転属願い出してみたらどうかな?」
「え?転属願い?」

「知っているだろう?うちの会社、このごろ、自分で勤務先や仕事を選べる制度が出来たっての」
「ああ、知っているけど・・・なんで自分が動かなきゃなんないんだ?」

「あの人が、出て行けばいいんじゃねえの?」
「だけど、あの制度は、人を動かしてもいいという制度じゃないでしょ?」

「そりゃぁ、そうだけど・・」
「君のためにならないなら、この支店にずっといなきゃいけないことはないよ?人との問題は、相性もあるからね。君は、あの部長と一緒になって、初めて挫折感を味わったから、今まであったどんなことよりも、今、我慢出来なくなっているだけじゃねぇの?」

「そうかなぁ・・でも、お前だってさっき言っただろ?部下を潰すタイプだって」
「たしかに、あの件では、結論ありきの会議になったし、根回ししていたお前のことだって、慰労してないからな。そういう意味では、部下を潰すさ。だけど、じゃぁ、部長はすべてにおいて部下のためにならないことばっかりしてるかな?」

「・・・・」
「お前はお前のやり方を変えようとしてなくて、真っ向勝負って感じでぶつかっているだろ?部長からみたら、どう思うかな?」

「部長から見たら、面白くないだろうな?でも、このあたりは、何でも先に根回ししておく必要があるし・・。そんなことも知らないで荒らされて、部長はちょっとしたらまた転勤だろ?残された俺たちはどうしたらいいんだ?」
「部長の言うとおりにしていたら、取引に影響するかもしれない。だけど、俺たちは、転属を希望しなければここにずっといられるさ。ということは、日々の付き合いは、俺たちがずっと築き上げてきた人とのつながりがある。ちょっとやそっとで関係が崩れるような付き合いにならないようにしたらいい。それより、部長と事前の打合せはやったのか?」

「いや・・俺、あの部長苦手だからさぁ、なるべく話したくないからさ、朝礼終わるとすぐに客先周りに出て、夜もゆっくり帰ってくるようにしているんだ。大事なことは、メールで話しているから問題はないさ」
「そうだな。メールは情報の共有は出来る。でも、それだけでいいかな?」

「それだけって?」
「つまり、今回、もっと早く部長と話したら、結論がずれていることに気づいたんじゃねえの?」

「確かにな。そうだな・・・部長がああいう結論だとは思わなかったしな」
「部長は、確かに自分の出した結論を押し通そうとした。それは誰が見てもそう感じるだろうさ。だけど、それを確認しないで根回しをしていた君にも、問題があるんじゃないかな?一度、部長と話してみたらどうかな?」

「でもなぁ・・・。俺、この間の会議で、噛み付いちゃっただろ?いいかなぁ」
「一人で話しづらきゃ付き合うよ。どうする?」

「そうだなぁ・・・そうしてもらおうかな?」
「イツがいい?」

「早いほうがいいかな?俺、嫌われてたらいやだし・・」
「まぁ、相手の気持ちが分からないのに心配してもしょうがないさ。あたって砕けないようにしようや」

「そうだな。なんだか、気持ちが楽になったよ。一度、この間のこと、誰かと話したかったと思ってたし。でも、誰に話していいかわからなかったし。忙しそうだったし」
「あんまり気を使うなよ。話したいときは、そう言ってくれればいい」

「すまんな・・・じゃ、俺ここで降りるわ。かみさんが迎えに来てるから」
「おやすみ」
「おやすみ」

この間、二十五分くらいだったでしょうか?
最初は愚痴を我慢しきれず、大声で吐き出していた男性Aさん。電車は大勢の人が利用する公共の場所であることもわきまえず、言いたい放題。これ以上続いたら、おせっかいでも声をかけてしまおうかと思ったくらいでしたが、同僚の方が控えめながら、冷静に話をリードしてくださったお陰で、電車内の空気がほっと緩んでいきました。
今年もまもなく新社会人の入社式。
どうぞ、新社会人が未来に夢を描き続けること
が出来ますよう、今、すでに企業を支えるビジネスパーソンの皆さんの、いきいきした顔を見せてあげてください。
働くことは辛いことですが、苦労をするから人は成長するのですから。仕事を通して自己成長、感じてみてください。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
講師プロフィールを見る