【再掲載】急に体調をこわしたラーメン屋さんの悩み~真剣に話を聴いてもらうことによるモチベーション向上効果~

ラーメン屋を営んで二十年。開店当初のラーメンブームに乗り、マスコミへの露出度も高く順調に十五年は「あっ!」という間に過ぎたという山形さん。忙しさにかまけて、休日もとらず、家族との時間も作れない毎日でしたが、「仕事を成功させるのが男の役目」と割り切った考え方をしていたため、夫婦の間に出来た溝が埋まらず二年前に離婚されたそうです。

今年に入って受けた健康診断により、肝臓が悪いことが判明。三ヶ月の入院が必要と宣告を受けてしまいました。店は、アルバイトがいるだけで、とても自分が入院中の仕事を任せられるような腕を持っていない為、急遽、店を長期休業とすることにし、ともかく体を治すことに専念することにしたにもかかわらず、廃業に追い込まれるのではないか、果たして復帰出来るのかと不安でならず、健康を害して悪い顔色が、なおさら、冴えない顔色となっている山形さん。

無料体験セッションをお受けにいらした最初の印象は、「この人、倒れそう・・・」というものでした。
「一生懸命、仕事に励んでいただけなのに・・。家族のためにと頑張っていたのに、気がつくと
離婚して一人ぼっち。入院同意書にサインを頼める家族がいない。手術が必要になっても、心配してくれる家族がいないんです。万一の時にも葬式を出してくれる人もいない。たしかに、特別、健康に気を配ってきたわけじゃない。でも、仕事をしても大して疲れるわけじゃなく、夜更かしをしないようにして朝だってすっきり起きていたし、体に悪いことはあまりしないようにしていたし。酒だって、お客さんに勧められたとき意外は飲まなかったし、タバコは、ラーメン屋を開業するときに1日の売り上げが三十万円になるまでは・・と願をかけて止めているうちに、自然に吸わなくなったし。何にも悪いことなんかしてこなかったのに・・・。どうして、私がこんな目にあわなければいけないんだ」
山形さんは、悔しそうに語ったままうつむき、言葉が続かなくなってしまいました。

「山形さん、お尋ねしたいことがあるんですが、よろしいですか?山形さんは今日コーチングを受けにこられているわけですが、コーチングってどんなものか、あらかじめ本を読んだり、情
報を集めたりしたことはありますか?」
「いえ、どういうものかわからなかったんですが、サラリーマンの若いお客さんが『コーチングがいいとか』、『コーチに相談するとすっきりして、ただよっていた霧がすっきりと晴れるような気がするとか』って言っていたのを思い出して・・。新聞のお知らせ欄に乗っていた案内を頼りに伺いました」

「そうですか。新聞をごらんいただいたんですね。ありがとうございます。今、お話をお聞きして、山形さんが抱えている悩みが、どれだけ深く大きなものか、私にはよく伝わってきます。しかし、山形さん。残念ですが、私はあなたの悩みを解決するのが仕事ではありません。あなたがこれからどんなふうに生きていきたいのかとか、どんな仕事をしたいのかとか、人生をどんなふうに計画して行動していきたいのかを具体的にイメージし、行動するための方法を一緒に考えるなど手助けをするのがコーチの仕事、つまり私に出来ることなんです。
現状の山形さんの苦労や不安はよく理解出来ました。残りの時間を使って、山形さんがこのセッションを通して、すこしでも前向きな気持ちを取り戻し、自分の人生は自分で決めることが出来ると感じられるようにしたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
「そんな・・・」
「山形さん、山形さんにとって、健康を害したことは大きなショックだったのですか?
それとも、こういう生活だったら、ある程度体が壊れることも気がついていたのでしょうか?」
山形さんは、沈んだ表情のまま答えてくれました。「実は決して健康に自信があったわけではありません。毎晩、遅くまで仕事をしていたし、新しいスープの開発のときは、何日も徹夜に近い状態になっていたこともあります。面白かったのでまったく疲れを感じませんでした。家族も気持ちは一緒に頑張ってくれていると思っていましたし・・・・。離婚してからの、ここ二年間くらいは、家族もいなくなってしまったので、家に帰る理由も目的もなくずっと店の奥の小さな部屋で寝ている始末でした。店が休みの日も研究しないと店がつぶれると思って他のお店のラーメンを食べ歩いていました」
「山形さんは、研究熱心だったんですね。私は山形さんがとてもまじめな努力家であると思います。ところで、山形さんが追求した完璧なスープの味は完成したのですか?」

「いや、完成はしていません。というか、どんな味にしたらいいか、まったくわからなくなってしまったといったほうがいいなぁ・・」
「そうですか。残念なお気持ちも、これからどうしたらいいのかという不安な気持ちでいらっしゃることもよくわかります。しかし、何にしても、まずは健康を取り戻すことが一番大切だと思うのですが、ご自身は今回の入院をどう受け止めていらっしゃるんでしょうか?」

「最初はやけっぱちでした。入院するのも止めようかと思い、せっかく先生がベッドを開けてくれた日を無視して、行かなかったんです。家族のためになるわけじゃないし。店だっていつまで持つかわからない。店をなんとかするしか私の人生はない。それなのにここで店を休むなんて、私から唯一の希望の店を取り上げるなんて・・・一体私の人生は、何のためにあったんだかと思うと、体に力が入らなくて。ただ、アルバイトしてくれていた吉山君が、『店長が帰ってくるのを楽しみに待ってますから。とりあえず働く次のバイト先は駅前のコンビニです。再開するときは、ぜったい声かけてくださいね。俺、店長のラーメンに対する頑固さが好きだったから・・』と言ってくれて。

家族は失ったけど、こんな自分のことを慕ってくれた奴がいたのかと思うと、入院して、体を治そうと思えるようになって・・」
「そうですか。今回の入院治療のきっかけは、アルバイトの吉山さんだったわけですね。
治ってお店を再開することが出来たら、彼を呼び戻してまた一緒にやりますか?」
「もちろんです。だからこそ、入院する決意をしたんだし・・」

そう言いながら、無料体験のセッションの時間が終わりました。
無料体験のセッションですから、残念ながらコーチとしてこれ以上の継続的な支援は出来ません。しかし、今、この時に感じていることを誰かに真剣に聞いてもらうだけで、人の意識はずいぶん変わっていくものです。山形さんも、最初は青白く生気のない顔をしていましたが、三十分の時間をともに過ごすうちに、顔に赤みが差し、少しだけですが、いきいきとした表情を取り戻してくれたように感じられました。

人生は、すべてをバランスよく過ごす力を備えておかなければなりません。
家庭生活、自己実現、仕事、健康、お金(経済力)など、いくつものバランスによって人生への満足感や、達成感が変わってくるものです。
私たちコーチにとって、人生のバランスがうまく図られているかどうかを客観的に冷静に、第三者の視点で見つめてあげることが使命であるのではないかを考えさせられるセッションでした。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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