仕事を任せた婿への対応に悩む経営者~業績向上につなぐ人材育成を考える~
「人生は長い長い「ウサギとカメの競争」。怠け心(ウサギ)と頑張る心(カメ)のバランスがなかなか上手く取れない。お客様へのアプローチが下手な社員を抱える経営者とのセッションです。
「お客様対応が下手な田所さん、その後いかがですか?」
「いやぁ・・・相変わらずなんですよね・・・。『これください』とおっしゃられたものだけしかお勧めしない。迷っているお客様との応対なんて、お客様が迷われている時間だけかかってしまって、完全に相手のペースでねぇ。お客さんが減ったとはいえ、うちは老舗の店ですよ、次のお客様がお待ちになっていらっしゃるわけだし。もう少してきぱきとお客様をさばいてもらいたいんです。『これがお勧めです』といって押し切ってもいいと思うんですよね」
「社長のお気持ちは、田所さんには伝えていらっしゃるんですよね?」
「いやぁ、私が直接言うと、若いモンには重荷だろうから、専務から伝えさせていますよ」
「なるほど、ご自分でおっしゃると、若い人に重荷になるから、専務さんに伝えてもらっているわけですね?専務はどんなふうに伝えているか、また、いつ伝えているか、確認していらっしゃいますか?」
「いやぁ・・・専務は入り婿ですからねぇ。私にも何かと遠慮があって、任せたことは一切口出ししないようにしているんだ」
「そうでしたね。では、なぜ、娘さんにお話して、教育をしてもらわないんですか?」
「いやぁ、娘では社員は動かないだろうからネェ。それに、あまり娘の力を当てにしたくないんだよ。まだ、子供たちにも手がかかるから、あれもこれもさせるわけにはいかないんだよ」
「お嬢さんへの配慮ですね。お嬢さんには手を貸していただこうと思わないのであれば、やはり、専務さんとの連携をもっと深める必要がありますね」
「専務の仕事ぶりがなかなか、自分の思うように進んでいなくて、イライラするんですねぇ」
「専務さんのお仕事が自分の思うものと違うことと、お客様対応が上手くならない田所さんの問題は、社長の中では、同列なんですか?」
「うん?いやぁ、そうじゃないんだが・・・」
「少し切り離して考えましょう。田所さんのように接客が上手く出来ない社員には、お手本を見せて感じさせることも重要ではないかと思うんですが、誰か先輩社員でお手本になれる人をあげていただけますか?」
「はぁ、そりゃあ、やっぱり私でしょう。この道五十三年。私もまだ、店には立ちますからネェ」
「なるほどね。社長自らをお手本として真似してみようと、提案なさったらいかがですか?」
「そりゃぁ、いいと思うが・・・」
「何か問題がありますか?」
「教育は専務に任せたといった以上、それもおかしいのではないか?それに、私が店頭に立つといっても、そうそう毎日じゃないわけだし。そんな悠長なこと言っていたら、人は育たんのではないのかな?」
「なるほどね。専務さんへの配慮が一つ。育てる時間が悠長になるのが一つ。二つの問題があるわけですね。この二つは、連携した問題であるように思うから、どちらか一方を選ばない、また両方とも選ばないこととして、何か別に手立てを考えてみましょう。いかがですか?」
「そうですね・・・」
「社長以外にお手本になりそうな社員はいますか?社長が信頼出来る社員がいいですね」
「うん・・・ベテランの課長が一人いるが、指導なんて出来るかなぁ・・」
「どんな指導をさせたいんですか?」
「そうだなぁ・・販売をさせている姿がゆっくり見られるように、彼女のアシスタントのようにぴったりひっつけようかな?」
「二人一組のようにペアを組ませるということですか?」
「そうだな。人件費の無駄遣いだと、専務には叱られるだろうけど、早く一人前になってもらえれば、取り戻せるだろうからなぁ・・・」
「ベテランの課長さんには、どんなことをあらかじめ伝えておく必要があると思いますか?」
「田所の販売が上手くないので、教えてやって欲しいということかな?」
「田所さんの販売が上手くないと、ベテランの課長さんは感じているんでしょうか?」
「いや、わからんが・・」
「もし、課長さんも同じように上手くないと感じていたのなら、自分が積極的に指導をしていたのではないでしょうか?」
「いや、うちはそういう人のことを率先して面倒みようなんていう社風じゃないから・・・」
「なるほどね。社長、それならなおさら、田所さんの何が問題なのか、明確にしたほうがよろしいのではないでしょうか?」
「そうだなぁ、お客様の言うとおりじゃなくて、店の自慢の品を勧めるとか、お客様の気持ちを慮れる店員になって欲しいということかな・・・」
「お客様の気持ちを慮るとはどういうことですか?」
「お客様の気持ちになって考えるということだろう。そんな細かなことまで言わなきゃわからないのかな?今の若いモノは・・。情けないネェ」
「店の自慢の品を勧めて、それがお客様の気持ちを慮れることになっていること、そんな店員さんになってもらいたいわけですね」
「そのとおり。それが出来て初めて販売のプロと言えると思う。そんなの当たり前だろう。私もこの道五十三年常にそうあるべきだと思ってやってきたんだ」
「社長の中にある販売のプロとしてのあり方、販売の理想像は、社長が頭の中で思われているだけでは社長だけのものですね。みんなのものとするためには、出来る限り具体的に、わかりやすく伝えないと、理解してもらえないのではないですか?」
「そうかなぁ・・言わなくてもわかると思うけど・・・・、あなたが言うなら、言ったほうが
いいのかなぁ」
「社長のお気持ちはいかがですか?おっしゃったほうがいいと思いますか?」
「よく分からんが、まぁ、一度やってみよう。それで、どう言ったらいいのかな?」
「田所さんにどんな販売員になってもらいたいか、出来る限り具体的に伝えてはいかがでしょうか?接客時間は、十五分くらいまでにしたいとか、迷っているお客様には、こんなふうにお品をお勧めしてもらいたいとか。まずは、社長のイメージする販売が出来るようにして、それから、田所さんの長所を生かした接客を確立させるという二段構えにしてはいかがですか?」
「そうだねぇ・・・それならいいなぁ」
「長年している仕事は、何でも上手くいっていますか?」
「うん?・・まぁ、そういうわけではないが・・・」
「うまくいかないことは、指導する。うまくいったことは褒めることが大事ですね」
「そうだな、褒めてやればやる気も出るな」
「そうでしょ。照れくさいかもしれませんが、やってみられますか?」
解決出来ない問題は、複雑にいくつか重なり合って起きるときがあります。当事者はそれに気づかず解決出来ないと悩みを抱えますす。コーチは、それに切り込むことも大切です。
竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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