ベテラン駅員さんの苦悩~若い駅員のモチベーションを上げる~
地方では大きな花火大会が開催される日に、終日、気が抜けないのは、会場係員や会場に一番近い駅で働く人たちです。
今年も無事に? 花火大会を終えたある私鉄の駅員さんとのセッションをご紹介します。
「この間の花火の日、コーチはどこにいらしたんですか?」
「残念ながら、私は出張に出ておりました。立花さんは、勤務日だったんですよね?」
「ええ、もちろんです。すごい人出でしたよ。日ごろは千人という単位でのご利用者がいるわけですが、花火の日は、万人に膨れ上がります。大きな事故がなかったことがせめてもの救いというか、自分たちへのご褒美ですね」
「お疲れ様でした。良かったですね。事故が起きずに済んだのは、皆さんのご努力のおかげでしょう」
「ありがとうございます。迷子や、忘れ物は、相変わらず、例年通りでしたけれどもね。面白いといったら不謹慎だと思うんですが、浴衣ブームだったでしょ?帯が外れた子供がいたようで、帯の忘れ物が一件ありました。びっくりしました」
「すっごい忘れ物ね。帯が解けたら気づきそうなものですが・・そういう親御さんだと、お子さん忘れても気づかないかもしれないですね」
「笑い話じゃないですよ。何年か前に、男の子が駅に置き去りにされたことがありました。可愛そうだったのは、駅に着いたばかりで改札口を通る前だったから、しばらく親御さんが迎えにいらっしゃるまでに時間がかかって、男の子は、花火をここから見ていました。まるで、駅に泣きに来たようなもので・・」
「親御さんは、はぐれたことにも気づかれなかったんですか?」
「いや、まさか。でも改札口ですでにはぐれたとは思わなかったようで、花火の会場の中でずっと探していらしたということでした」
「そうですか、いろんなドラマが駅にはありそうですね」
「ええ、そうですね。迷子になった子供とせっかく会ったのに、いきなり子供に向かって『だからちゃんと手をつないでなさいと言ったでしょ!』と、怒り出すお母さんがいて。子供の頭を叩くんですよね。僕らからしたら、子供より、お母さんを叩いてやりたくなります。
もちろん、ぐっと我慢ですけれどもね。ところで、このごろの若い駅員は何を考えているか、ほんと、理解出来ないですね」
「深くため息をつかれましたが、何か強くお感じなる出来事でもありましたか?」
「ええ、こういう日は、駅の改札口の外に出て、整列入場をお願いするんです。何メートルも前から並んでいただけると、駅構内への入場が結果的に早くなるからです」
「なるほど」
「でも、駅舎から出て、拡声器で整列を呼びかけるのは、慣れないと恥ずかしいものなんです。自分たちのころは、若い駅員の役割だと思って、恥ずかしくても率先してベテラン駅員に指導を受けて、自らかって出たものですが、今の若い人たちは、出来ればそんな恥ずかしい仕事はしたくないと思っているんです。だから、時間を決めて、ローテーション表で管理して、指示しなければならない。こんな忙しい日に、ローテーション表と首っ引きで若い連中が持ち場についているかなんか確認しながら、仕事は進められません。お互い、チームワークよく自分の仕事を自分で見つけながら進めるべきなのに・・」
「なるほど、自発的に動かない。気配りもない仕事ぶりにいったい何を感じたんでしょう?」
「とにかく仕事への意欲のなさにはほとほと嫌気を感じました。鉄道が好きで、小さいころから電車の運転手に憧れを感じて鉄道マンになる人は多いのですが、今の若い人は、就職先の一つが鉄道会社だったっていう感じかな?」
「うん・・若い人の気持ちは分かりませんが、立花さんが、若い人の勤務態度を不快に思う気持ちと鉄道を愛していることは理解出来ます」
「ありがとうございます。こういう話って、家でしても女房は、『そんなに腹が立つなら、もっとちゃんと指導すればいいじゃない?あなたの指導力が問われちゃうかもしれないでしょ?』なんて具合で。ちっとも理解してくれないのに、コーチと話をすると、問題そのものが解決しなくても、まず、ほっと出来るからいいですね」
「ありがとうございます。気分が晴れるという感想をいただけるのは嬉しいです。しかし、立花さん、ただの愚痴話に終わらないためにも、今後、どんなふうに指導したいかを考えてみてはいかがでしょうか?」
「そうですね。僕たちが引退したら、花火の日に駅構内で事故が起きたなんていうことになったら、寝覚めが悪いですからネェ・・」
「一番気にかかることは、構内での事故のようですね」
「それに一番神経を使いますよ。だれにも怪我させずに運行することは、とても大変なことです。当たり前のようですが、当たり前ではない。だから、出来る限りいろんなところに神経を配って、事前にイメージトレーニングして危険回避出来る駅員を養成したいと思っているんです」
「構内での事故を未然に防ぐことは、誰にとってメリットがあるのでしょうか?」
「駅をご利用いただくお客様と駅員の双方です。お客様の安全も確保出来るし、お客様を安全に目的地までお運び出来たら、駅員も自分の仕事に誇りがもてるのではないでしょうか?」
「そうですね。お客様の満足を得ることも大切だし、同時に駅員の満足も高めたいということですね?」
「そうです。どちらかだけじゃ、いけないような気がします」
「それを、若い人たちに伝えるために、どんな言葉を考えますか?」
「そうですねぇ・・・やる気があるのか、仕事が好きなのかが分からない若い連中に、こんなことを言ったら、却って押し付けになるでしょうか?」
「そうですね、今は、相手の気持ちを推測することは出来ても、本心かどうかがつかめませんね。そうであるならば、まず、その辺りからじっくり話を聞いてあげたらいかがですか?」
「そうですね、でも、ただ話を聞くだけでいいんでしょうか?」
「さきほど、奥様との会話にヒントがあるのではないですか?」
「というと?」
「奥様に話を聞いてもらいたいと思って、仕事のお話をなさるけれども、満足感が得られないのはなぜだか分かりますか?」
「うん・・・女房は、何かと意見を言いたがるんだよね。ただ、一言お疲れ様とか、それでもよくがんばっているねって言って欲しいだけなのに・・・。うん、そうか!若い連中の話を聞いたら、それなりにがんばっていることを認めたらいいのかもしれないですね?」
「そうですね。人にはみんな、人に認められたいという願望があると思います。だから、幼稚な考えや行動だと思われても、そのレベルに応じた行動であったり、考え方であれば、それを認めてあげたり、褒めてあげてはいかがでしょうか?」
「うん、それはいい。といってもすぐに褒められるようになるか、ちょっと不安ですが、出来る限りやってみます」
「はい、では二週間後、確認させていただくこととして、今日はこれで終了にしましょう」
竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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