異動先の理解のない上司に悩む(その2)~職場異動を命じられ、戸惑う社員に自分の役割を考えさせる~
セッションは二週間に一度の割合で行われていました。三ヶ月1回目の今日までの間のセッションでは、茂手木さんの自身の気持ちが整理出来てはきたものの、まだ、行動に結びつくまでにはいたりません。
「こんにちは、茂手木さん。前回のセッションでは、課長の意見を伺ってみるという約束をしましたが、いかがでしたか?」
「はい、堀田課長に私の考えた計画を聞いていただき、『意見を下さい』と申し入れたところ、快くお受けくださり、先週の金曜日の午後、堀田課長、係長の江碕君と一緒に会議をしました。考えてみたら、何かをする前に相談と言うか、意見をまとめるに当たっての会議は、今回が初めてだった気がします。」
「つまり、いつもは、先行独断し人に相談しないで、自分で考えたものを提案という名の下に部下に押し付けていた?」
「厳しいなぁ・・・。コーチ、でもそうなんですよ。どうせ言っても無駄。堀田課長はやる気がない。社長の意思が理解出来ていないと思い込んでいたものですから。それに係長の江碕君の意見なんて、聞いてもしょうがないと思っていたし・・・」
「江碕さんは当初から、茂手木さんの意見に耳を傾けていてくれたんでしょう?それなのに、相談をするとか、二人で意見をまとめようとしなかったんですね?」
「めんどくさいと思っていたんです。営業のときは一人で何もかもやっていたんです。資料作りや、後方のお客様の管理などはアシスタント社員に手伝ってもらうけれども、通常は一人で作戦は練るし、落とし方も自分で考えますからね。一人で仕事をするのは当たり前だし、それが能力だと思っていましたから」
「今回ようやく江碕さんを巻き込んだのは、どうしても自分の考えた計画を通したいと思ったからですか?それとも、早く営業に戻りたいから?」
「ひどいなぁ・・。営業に戻りたい気持ちはあります。でも、今は、ここでの改善をもっとやりたいと思っているんです。楽しいですよ。皆と議論をするのも」
「よほど、会議が刺激を与えたようですね?」
「はい、営業会議は、どちらかというと数字が出来ているか出来ていないかで居心地が変わる。社長も同席されることが多いので、数字が出来てない奴は、ホント辛い会議だと思います。僕の数字はいつも出来るし、顧客フォローも出来ているから、社長に褒められることが多くて、しんどいことはなかったけど。若い奴らは、気の毒でしたね。それに比べて、社長は同席しないけれども、会社のしくみを揺さぶれるようなこのセクションで、社長が同席しないから大胆な発想も出来る会議は、自由な雰囲気で自由に発言出来る。堀田課長は、自分の意見も言うけれども、僕たちの意見をじっくり聞いてくれるんですよ。どうして、席にいるとき、もっとフランクに話してもらえないのかは不思議だけど、会議をするのは、好きなようです」
「何を決めることが出来たんですか?」
「はい、懸案の残業時間の短縮を実現させるための計画、修正にはなりましたが、ほぼ、自分の意見どおりになりそうです。嬉しいですよ。1年かかったけど、ようやく着手出来そうです」
「なるほど、茂手木さんの嬉しい気持ち、同じように感じます。私もとても嬉しいです」
「ん・・・言いにくいけど、やっぱりコーチのお陰ですね。ありがとうございます。今日のセッションでもそうだけど、結構するどいんですよね?コーチの指摘。でも、そのお陰で、自分を客観的に見つめられた気がします」
「見つめただけでは、行動には結びつかなかったこともたくさんありますね。何が茂手木さんを動かしたか、ご自身どんなふうに理解されていますか?」
「客観的に見るということと、指摘されたことをどう克服するか、具体的に考えることが出来た気がします。強気で言うわけじゃないけれども、指摘されても、課長に言われるよりずっと重みがあるというか、腹が立たないから不思議だったんですよね・・」
「腹が立たない理由が、私との信頼関係であれば私はとても嬉しいです」
「そうですね・・・信頼関係というのかなぁ・・。なんだか分からないけれども、ともかく聴いて欲しいという気持ちが高まるというのかなぁ・・」
「気持ちが高まるだけでは、行動には結びつかないですね。今回は、宿題という形で実際の行動につながっています」
「うん、期限を決めるというのは、大切なことだと思います。あしたでもいいことは、今日はやらない。今日でなければならないことでも、言い訳をして明日に伸ばす。多くの人はそうだと思うんですけど、自分は動いた。何がといわれても難しいけれども、問題を自分のこととして考えたということでしょうか?。今までは、このミッションは、社長からじきじきに言われたので、社長のミッションだと思って、どこかで社長の変わりにやってあげるんだという気持ちがあったかもしれないですね」
「この問題を自分のものとして捉えることが出来たからこそ、行動に結びついたということですね。そして、成果は、ほぼ、自分のプランどおりに進みそうであるというところでは、満足感は高いですか?」
「点数なら九〇点」
「一〇点不足は?」
「スピード、取り掛かりに1年かかったから」
「では、この計画を実行するに当たっての目標は?」
「人を巻き込みながら、六ヶ月で軌道に載せる」
「なるほど、人を巻き込みながら六ヶ月で軌道に載せるんですね?」
「成功したらどんな効果が現れますか?」
「残業をする人がいなくなることはないと思うけど、1日あたりの残業者は減ると思います」
「相対的には減らないけれども、部分的に減少するということですか?」
「はい、セクションごとにノー残業デーを設けますので。六ヵ月後、ある程度、社員の意識が変わったら、今度は、生産部全体のノー残業デーを設けることにします。フロア全体の灯りが消える日が、早ければ七ヵ月後にあるかもしれません」
「営業への配置転換を望む気持ちは?」
「とりあえず、1年、ここで頑張ります。堀田課長ともゆっくり付き合ってみたいし」
「社長へのご報告は?」
「それは、私の仕事ではありません。課長にすべてお任せしていますから」
「会議をもてたことは、ほんとうに茂手木さんにとって重要なことだったんですね?」
「はい、営業部のときは一人で営業していたから、一人で会社を背負っているような気がしていた。そんなこと、絶対ありえないのに。それに、製造や管理の人たちと、営業との仕事の連携も出来ると思うんです。それも目標にしてみたいです」
「なるほど、残念ですが、今日は時間が来てしまったんですが、次回までに達成したいことを決めていただけますか?」
「はい、このプランの実行日を決めることと、部内への通達を出すことです」
「プラン実行日を決める。部内への通達を出すことですね。最後の約束です。ぜひ実行してください。今回のセッションはこれで終わりになります。ありがとうございました」
竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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