保護者からの電話に悩む先生~真意を伝えるコミュニケーションを考える~

高校サッカー部の新任顧問として勤務することになった熱血スポーツマンの坂本さん。入学式直後から、どうしたらこのチームのレベルを上げることが出来るのかと、練習のメニューや体力づくり、ひいては、筋肉をつけるための食事のメニューまで考えて、保護者にも協力を求めていました。
練習の指導にも熱が入り、子供達も自分の厳しい指導についてきてくれていると手ごたえを感じていました。
ところが、ある日の午後、練習を終え、残った仕事を片付け同僚であるバスケットボール部顧問の先生を誘いビールでも飲もうかと立ち寄った店の入り口で、保護者からの電話を受けたそうです。
「はい、坂本です。ああ、加藤さん、いつもお世話になります」と、さわやかに挨拶をするや否や、
「先生、食事の献立まで指図するのはいかがなものですか?我が家は共働きで、食事は簡単に済ませることだってあるし、出前をとることだってあるんです。
息子は、先生の立てるメニューどおりにしなければ、レギュラーから外されると神経質になり、ふさぎこみがちである。いったい、あなたは何様のつもりですか? 先生は栄養士の免状でも持っているんですか? たかが高校の部活の顧問ごときに、家庭の食事まで指図されなければならないことはない。それとも何ですか、うちみたいな共稼ぎの家の子供はサッカーをする資格がないって言われるんですか」と、怒鳴りつけられ、一方的に電話を切られてしまったそうです。
ショックを受けた坂本先生は、冴えない顔のまま、同僚が待つ店の中に入り、ビールで乾杯するも、気持ちはさえません。急に元気がなくなったことに気づいた同僚は、さりげなく話を切り出しました。

「急に天気が変わったようだね。今は大雨って感じだぞ。」
「ああ、そうなんだ。今日は子供達の体も切れていたし、モチベーションも高かったから、いい練習が出来たって思ったんだけどなぁ・・・」

「残念なことがあったのか?」
「ああ、まぁそうだな。残念っていうか、悔しいなぁ」

「悔しい? お前の気持ちが伝わらなかったのか?」
「ああ、今、部員の保護者からの電話でさ、俺の言い分を聞くわけでもなく、一方的に言いたいことだけ言われて、がちゃって・・」

「そうか、それは辛いな。どんなことを言われたのか、話す気になれるか?」
「ああ、いいのかな?言っても・・」

「守秘義務は守る!って言いたいけど、学校全体で考えたほうがよければ、上に相談するよ」
「そうだな。たぶん、学校にも連絡が入るんだろうなぁ・・あの調子じゃな・・まいったな」

「まいっているんだ。どんなことにまいってるんだい?」
「実は、保護者からのクレームの電話でさ。たかがサッカー部の顧問ごときが、家庭の食事まで指図するなって言われちゃったんだ。確かにそうかもしれないけど、うちの子達は筋力が弱いんだ。だから接戦の試合では負けてしまうことが多いんだ。おまえも運動部の顧問をやっているからわかってくれると思うけど、子供達に勝つ喜びを味あわせてやりたいんだ。
全国大会になんて一足飛びには思わないけれども、県大会では上位を狙えるところまで上げていきたいんだ。うちの子供たちにはそれくらい出来る能力はあるんだ。それが肝心なところで凡ミスが出て負けることが多い。前の学校のときにうちのチームと試合して感じたことなんだ。
少しでも強いチームにして、子供たちに自信を持たせてやりたくて。ついつい、力が入りすぎたのかなぁ・・」

「そうか、おまえは良かれと思ってしたんだろ?それが認めてもらえなくて挙句の果てに保護者のクレームか。保護者のクレームは受けたくなかったなぁ」
「ああ、そうだな。でも、真意を組んでもらえなかったのが悔しくて。子供たちのこと、自分だって真剣に考えているのに・・」

「そうだな。おまえは、今の教師にしては珍しく、子供の指導に熱意がある。ありすぎるといってもいいかもしれないな。ただ、そんなふうに熱くかかわられる親や子供はどんなふうに受け止めているんだろうか?」
「ん?・・・どんなふうに?って、もしかして、重荷になってるのかなあ?自分は出来ればそうしてほしいとアドバイスのつもりで言ったんだけどな・・・」

「いや、重荷になっているかどうか、自分には判断出来ない。でもなぁ、おまえはアドバイスのつもりで言っても、相手にとっては顧問の先生の言葉って絶対にしなければならない命令に受けとるもんだぞ。
おまえの気持ちをちゃんと保護者に伝える方法を考えたほうがいいと思うんだ。一方的に情報を流しても、双方向に意見交換しないと、真意を伝えられないし,真意も汲み取れないんじゃないか?
今回、クレームの電話とはいえ、保護者から意見が聞けたというのはコミュニケーションとしては一歩前進、双方向の意見交換が始まったということだぞ、それはそれとしていいことなんだ。
これを踏まえて、この先どう子供たちや保護者と向かい合っていくかということじゃないかな。
クレームととるのか貴重なご意見を頂いたととるのかは、お前次第だ」
「そうかなぁ・・・そうだよな」

「何がそうさせるかわからんが、おまえと話すと気持ちが楽になるって言うか、明るくなれるなぁ。不思議だなあ。
よっしゃ、明日校長に今回のことを話し自分としての対応の仕方を説明して、保護者や生徒に自分の指導方法を伝える準備をはじめるよ。なんかすっきりしたな。雨降って地固まるでやってみるよ。よし、もう1度乾杯してもいいかな?」

居酒屋での会話です。同僚がコーチングを学んでいたかどうかわかりませんが、自然な会話の中でも、コーチと同じような会話を組み立てることは可能です。
しかし、コーチングを学べば、もっともっと、やる気を取り戻させ、行動計画を立て成果をあげることが可能になります。
ご自身の会話を振り返り、学ぶ前からコーチとしての資質を感じる皆さん。コミュニケーション能力向上と、人との関係をより楽しむためにも、ぜひ、一緒に学びましょう。


竹内 和美

竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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