親子コーチングの失敗事例~完全主義の母、子どもとのコミュニケーションを考える~
高校1年生の長男は、とにかく熱心にクラブ活動のために学校に行くそうです。
夏休みになってもこの暑さの中、炎天下で熱中症と戦いながら白球を追っているようで、くたびれて帰ってきて誰とも話したくなくすぐに自分の部屋にいきたい気持ちも理解は出来ますが、あまりにも「自分」を中心に生活を送っており、家族の協力が必要な兼業母親(仕事と育児と家事を両立させている主婦)としては、心がとがる日もあるとのことです。
今日も、寝起きが悪く不機嫌そうな長男と向き合うと、つい余計ごとを口走りそうになるため、弁当を作った後は、さっさと自室へ戻りました。そんな母親を追って、長男が部屋に入るなり、「お茶、作っといて・・」との一言です。〝カチン〟と頭の中の音が聞こえるほど、腹立たしく感じたお母さんは、長男相手にコーチングしてみようと思ったそうです。
「あのさ、あなたのクラブでは、チームワークは必要ないの?」
「はぁ?朝から何の話?」
「だから、家庭だってクラブだって、チームワークでしょ?私は弁当を作るという協力は惜しみなくしたでしょ?」
「だから何?」
「ちょっと体がだるくて、しんどいから横になりたいのね?お母さんだっていつもいつも元気じゃないからさぁ・・自分で出来そうなことは自分でするという自立心も養うんじゃないのかな?あなたのクラブは・・」
「はぁ?ってことは、やりたくないってこと? だったらそういえばいいじゃん!ぐちゃぐちゃ遠まわしに言わんでよ、うっとおしいなぁ・・朝から・・・」
この会話だけでも、すでにご理解いただけると思いますが、まったくコーチングではありません。
お母さんは、冷静になろうと努めるのですが、あまりにもふてぶてしい態度に、つい、感情が高ぶってしまい、
「ちょっと待った、あなた、誰に口聞いてるの?誰が学費払ってるわけ?高校生でも、アルバイトしながら学校通う子だっていると思うのに、あんまり当たり前だと思わないでよね?誰にとっても時間は価値を生むもので、眠って体力を維持しなければならないことであっても、それは次に働くエネルギーを作る時間だと思えば、価値があるじゃない? 自分のやりたいことなら、自分のことは自分でするのが当然でしょ?」
と、大きな声を上げてしまったそうです。
それに対して長男は、「ばっかじゃないの?何朝からカリカリしてんの?理解出来ん・・」と言い残して、出かけたそうです。
お母さんは約束はなかったのですが、緊急にコーチに電話をかけて、セッションを希望しました。
「コーチ・・・また、やっちゃいました・・・とても辛いです」
「うん・・辛いネェ・・・今、何を感じてる?」
「そうですね、親子間ではコーチングは出来ないと思ってます」
「親子間ではコーチングは出来ない。それは残念なのかしら?」
「そうですね、残念です。・・・二つの残念があります。一つはコーチングを学んでいるのに、ぜんぜん役に立てられないこと。一つは、また、長男とけんかしたという意味で・・・」
「親子間でコーチングがうまくいくとしたら、どんな条件が必要だと思ってますか?」
「そうですね・・・やはり、時間というゆとりがあったほうがいいかな?」
「ゆとりですか?」
「うん、そうですね。あと、体調。私が体調さえよければ、何も引っかかることはなかったと思います。弁当って、ホント毎日でしょ?大変なんです。朝1番電車に乗るって言われたら、四時半にはおきなくちゃ。そんな日に1日自分の仕事があると、体力持つかな?って考えちゃいますよ。そうすると、ちょっとの時間見つけて、横になりたいと思うんですよね。だって、仕事に穴を開けたら、お客様に迷惑がかかるでしょ?」
「なるほど、ちょっときつい言い方をするなら、ご自身の仕事のお客様には甘えられないけれども、家族には甘えたい?」
「うん・・・厳しい言い方だけど、受け入れなければならないかなぁ・・・甘えですかね?」
「いや、甘えだとは思いません。プロの意識をお持ちでいらっしゃることは、尊敬いたします。ただ、ご家族との間には、その厳しさよりもすこし甘えがあるようには感じます」
「そうですね。長男に分かりなさい、ママはこんなにあなたのためにやってるでしょ?もっと感謝しなさい!って言いたい気持ちがあります。小さいころは、親の顔色見て動く子だったのに、どこで間違ったのかしらねぇ・・・」
「親の顔色みて動いて欲しいですか?」
「いいえ、それはあまり望みませんが、自立して欲しいですね。自分の飲むお茶は自分で作る。弁当箱は洗っておくとか・・・」
「そういう気持ちを話されたことはありますか?」
「いいえ、ありません。そんなゆっくりした話は出来ませんから・・」
「時間は価値があるとおっしゃったけれども、お話する時間が持てませんか?」
「帰ってくると、疲れている様子は伺えますから、けんかすることもないかな?と」
「けんかすることが前提になってますね・・」
「ああ、そうですね。そういえば、いつもけんか腰ですね。このごろ」
「お互い、疲れていらっしゃるんじゃなりませんか?」
「ええ、そうですね。疲れています。暑いのが苦手なせいもあるかな?」
「真の苦手は暑さかしら?」
「うん、そうかもしれません。暑い=大量消耗って感じ捉えていますから」
「なるほど。ところで長男さんとは、今夜どうしますか?」
「うん・・・、難しいですね。お互い知らん顔ですかね?」
「ご自分に望むことは何かありますか?」
「そうですね、出来れば、静かな夜にしたいので、自分から朝の続きをはじめないことと、絡まれたととらないことでしょうか?」
「あはは、子どもに絡まれる。面白い捉え方ですね・・」
「うん、やっぱり疲れていると思います。すべてネガティブですね考え方が・・・」
「いや、そういう時もあると受け入れられたらいかがですか?すべてがうまくいくことはありません。そう考えたら、少し肩の力が抜けると思いますが、いかがでしょうか?」
「そうですね。疲れのせいにしてもいけないけれども、疲れていることも事実ですからね」
「ちょっと、アドバイスしてもいいですか」
「はい、どんなことでしょうか。参考にしますのでアドバイスをお願いします」
「お母さんは、毎日の家事と仕事で疲れている。子供さんも毎日のクラブ活動で疲れている。お互いが疲れているとき、また朝の忙しいときには話は出来ないと思います。すこし落ち着いて話が出来るタイミングのときに、お子さんに向けてのコーチングをされることをお勧めしします」
「そうですね。少し考えてみます。今日は、突然で申し訳ありませんでした。ありがとうございました」
竹内 和美 (たけうち かずみ)
エイジング・アドバイザー®/世渡り指南師®/プロフェッショナル・キャリア・カウンセラー®/認定キャリア・コンサルタント/認定エグゼクティブ・コーチ
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